DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「それならいいんだけれど。それで、お仕事のことなんだけれど、お休みは定休日の日曜日と月曜日でいいかしら? 土曜日は、来店するお客さまも多いから出てほしくて。あ、でも、トラちゃんとデートの予定があれば、遠慮なく言ってね。それとお給料は、大手企業の会社員ほどは出せないけれど、ちゃんと社会保険も付けるし」
「あの……」
「商品の知識は、おいおい憶えてもらえれば大丈夫。事務のお仕事もされていたと聞いているけれど、顧客名簿の作成、売上の計算、在庫管理とか、雑務諸々もお任せしていいかしら?」
どうやら、仕事のオファーのようだが、何がどうなってそんな話になっているのか、さっぱりわからなかった。
「あの、すみません、ええと……どうしてわたしにそんなお話を?」
「お仕事、探しているんじゃないの?」
「探していますけれど……」
戸惑うわたしに、梅乃さんは眉を吊り上げた。
「トラちゃんったらっ! もー、本当にあそこの兄弟は言葉が足りなすぎるわっ!」
憤然として叫んだ彼女は、スワロフスキーや貝殻やら何やらで、軽く二台分の重量はありそうなデコレーションが施されたスマホを取り出し、誰かに電話を架けた。
そして、これまでの乙女らしい声から一転、低くドスの効いた声でひと言。
「いますぐ、顔貸せや」
それだけ言って電話を切り、唖然とするわたしに微笑みかける。
「ちゃーんと説明させるから」
「は、はぁ」
「それで、トラちゃんとはどこでどうやって知り合ったのかしら?」
「辛島さんが、わたしの部屋のお隣に引っ越して来て」
「もしや、あいつ……ストーカー?」
「ち、ちがいますっ! 辛島さんがご執心のケーキ屋で働いていたんです、わたし。でも、残念ながらそのお店は閉店してしまって。辛島さんが常連さんだったことは知っていたんですけど、お会いしたことはなくて。でも、偶然お隣に引っ越して来られて、それでお知り合いに」
知り合った経緯は若干ちがうが、嘘ではない。
酔っ払った勢いで寝た……なんて、とても言えない。
「ものすごい偶然ね」
「そ、そうですね」
「運命感じちゃう?」
「いえ、まったく」
「現実的なのね」
「恋愛に、理想や夢を求めるような年齢ではありませんから」