DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々

苦笑いするわたしに、梅乃さんは首を傾げたが、軽やかなドアベルの音がすると同時に振り返った。


「トラちゃん!」

「いきなり人を呼びつけやがって。何の用だ、梅乃」


現れたのは、初めて会った時と同じようなブラックスーツにオールバックの辛島さん。

ファンシーなお店とその対極にいるような彼。
なかなかシュールな光景だ。


「何の用だ、ですってぇっ!? 何の説明もなしに桃果ちゃんをうちに送り込むなんて、どういうつもりっ!?」

「どういうつもりも何も、もかは職を探しているし、梅乃は急に辞めたパートの代わりをさがしている。需要と供給がちょうど見合うだろうが。詳しい話は、俺がするより梅乃が面接をかねて直接したほうが早いと思ったから、店に行くよう伝えた」


筋が通った説明だった。
しかし、わたしの同意を得ていれば、の話だ。


「あんたねぇ……まずは桃果ちゃんの了解を得なさいよ」

「ここへ来たのは、了解したということだろう」


梅乃さんは、話が通じないとばかりに溜息を吐く。

どう見てもサイズがミスマッチなひとり掛けの華奢なソファーに、無理やり身体を押し込んだ辛島さんは、彼の手にかかるとスナック菓子くらいの大きさにしか見えないキュウリのサンドイッチを口に放り込む。続けて三つ。

それから、わたしの飲みかけの紅茶を勝手に飲む。


「で、どうだ? 興味あるか?」


ギロリ、と目力満点で見据えられ、知らず背筋が伸びる。


「興味、なくはないですけれど、わたしあんまり女の子らしいものは似合わないので……」


スカートよりパンツ派。色も、ピンクや白よりも、青や緑といった寒色系を選ぶ。フリルやレース、花柄は選ばない。
そういうものは、もっと華奢でかわいらしい女の子に似合うものだ。


「でも、好きだろ?」


何を根拠に、と目で問うわたしに、スコーンをひと口で平らげた辛島さんは呆れ顔になる。


「もかの部屋にあった小物や食器、ファブリック類は、この店のテイストに近いものが多かった」


気づかれていたと知って、顔が熱くなった。

小さい頃、あまり女の子らしいものを持っていなかった反動からか、かわいらしいデザインのものに惹かれる。

洋服は、自分には似合わないとわかっているので挑戦したことはないが、雑貨、ファブリック類や家具、アクセサリーなどは手が届く範囲で細々と買い揃えていた。

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