DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「あの、ここで働かせてください。今日からでもかまいません。どうぞよろしくお願いしますっ」
最初に失業した時も、二度目に失業した時も、コネや伝手を使うのは楽な方へ逃げているだけのような気がして、柚子の厚意も受け取れずにいた。
けれど、自分を信じてくれた人のために一生懸命働きたいと思う糧になるのなら、与えられたチャンスを掴むのは、きっと逃げではない。
あっけに取られた表情になった梅乃さんは、すぐに「嬉しいーっ」と叫び、わたしの両手を握って振り回した。
「前のパートさん、旦那さんの転勤が急に決まって辞めちゃって。本当にどうしようかと思っていたのよぅ」
「俺に感謝しろよ? 梅乃」
「偉そうにっ! アンタの愛用している寝袋、レースとフリルで覆ってやりましょうか?」
「冗談でもやめてくれ。これで、俺の仕事は終わったよな? 社に戻る」
辛島さんは、ひと口大のチョコレートケーキを二つばかり口に放り込んで、立ち上がった。
「じゃあな。しっかり働けよ、もか」
あっけなく去って行く彼の背を慌てて追いかけ、車に乗り込もうとするのを引き留める。
坊主頭の運転手らしき人物がドアを開けているのは、黒塗りの高級車。
スモークガラスではないようだが……防弾仕様かもしれない。
乗ってしまったら、いくら叫ぼうが喚こうが、聴こえないのではないかと焦る。
「ま、待って! 辛島さんっ!」
呼びかけた瞬間、ドアを押さえていた運転手の手が懐に伸びた。
(ま、まさかっ)
ピタリと足を止め、微妙な距離で踏み止まる。
(ち、ちがうの! 襲撃じゃないのぉっ!)
「どうした? もか」
「い、いえ、あの、あり、ありがとうございます。こんなに親切にしていただいて、何とお礼を言っていいのか……」
心の中で必死に言い訳しながら、しどろもどろにお礼を述べると、予想もしていなかった言葉が返ってきた。
「別に礼はいらん。ちゃんと見返りはもらうつもりだからな」
「み、見返り……?」
「世の中、タダより高いものはないというだろう? 下心もなく、親切にするわけねぇだろうが。アンタ、ほんと抜けてるよな」
「え、あのっ……」
「あんたには、もう一つ別の仕事も頼むつもりでいた」
「仕事、ですか?」
一瞬、どこかに売り飛ばされるのでは、なんて考えが脳裏を過ったが、それなら梅乃さんのところで働かせたりしないだろうと思い直す。
「今夜、部屋に行く。このあと、面倒なオヤジたちとの顔合わせがあって、話してる時間がねぇんだ」
(お、オヤジたち……それは、なんとか就任の挨拶とか? 辛島さんくらいの年齢だと長というよりも……)
床の間、日本刀、金杯で酌み交わされる酒。
祖母愛蔵のDVDコレクションの一場面が脳裏に浮かぶ。
「もか?」
「えっ! あ、お勤めご苦労様です。若」
「は? わか?」
スルリと口をついて出た台詞に、辛島さんが顔をしかめた。