DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
(わ、わたしったらなんてこと口走って……!)
「な、何でも、何でもないですっ! お、お仕事、お仕事頑張ってください!」
慌てて言い直したところ、なぜか辛島さんは照れくさそうな表情で頷く。
「おう」
「あの、お帰りは何時頃になりますか?」
「七時か、遅くとも八時までには帰れると思うが」
「じゃあ、何か食べるもの用意して待ってますね」
何の気なしに口にしてから、「あっ」と思った。
(また、わたし、余計なことを……恋人でも何でもないのに、手料理とか、待ってるとか、重いでしょうがっ!)
「あのっ」
焦って、彼のために作るのではないと否定しようとしたが、言えなかった。
あまりにも、彼が嬉しそうな顔をしたから。
「作ってくれるのかっ!?」
「あ、えっと……は、はい。ご迷惑でなければ……」
「迷惑なわけねぇだろうがっ! 好き嫌いはないから、もかの作りたいもんでいい。うわ、やべぇな……仕事中、ずっとニヤけちまいそうだ」
「…………」
顔を赤くしたわたしの背後から、デレている辛島さんへ梅乃さんの冷たい忠告が投げかけられる。
「その顔でニヤけてると、何か企んでいるようにしか見えないから、やめたほうがいいわよ。トラちゃん」
「うるせぇなっ!」
「桃果ちゃんとイチャイチャするのは家の中だけにして、さっさと仕事へ戻りなさい」
「俺を呼び出したのは梅乃だろうが。ったくっ……」
ぶつぶつ文句を言いながら車に乗り込んだ辛島さんは、ウィンドウを下げて、じいっとわたしを見つめて来る。
(な、何……何なのっ……も、もしや、これは喧嘩を売られて……?)
「桃果ちゃん、お見送りの言葉!」
梅乃さんに囁かれ、本当にそんなものを要求しているのだろうかと半信半疑になりながら、おずおずと口にする。
「い、いってらっしゃい?」