DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
酷評されればまだいい方で、明らかに社交辞令とわかる表情や口調でおざなりな言葉をかけられた日には……。
(いや、だから、見せること前提じゃないし)
スマホをテーブルに放り出し、ぐつぐつ煮込んでいるカレーの様子を見に、キッチンへ戻る。
和洋中で迷った結果、鉄板の「カレー」にしたのは、期待を裏切ることなく、しかし張り切りすぎないメニューとして相応しいと思ったから。
(サラダも付けるし、デザートに駅前のデパ地下で人気のシュークリームもあるし……。手抜きじゃないよね? いや、むしろ、そんなに用意して重いと思われる……?)
こちらにそのつもりがなくても、相手が望んでいなければお節介、迷惑だと思われる。
四年も付き合った相手との距離も適切に取れなかったのだ。
ましてや、昨日今日知り合った相手と、どれくらいの距離を保てばちょうどいいのかわからない。
今夜部屋に来ると言った彼の目的が、もう一つの仕事の依頼のためだけなのか、それ以外も含まれているのかも、わからない。
(別に、期待しているわけじゃないわ。シャワーを浴びたのは、汗をかいたからだし。パジャマではなく、コンビニに行けるくらいの部屋着にしたのは、礼儀というもので……)
あれこれ言い訳を考えているうちに、ハタと思い至る。
(も、もしかして……もう一つの仕事っていうのが、セフレ……愛人契約だったらどうしよう……)
美貌もグラマーな身体も持ち合わせていないが、彼にとって「抱ける」くらいには魅力があると言われている。
隣の部屋に住んでいれば、いちいちホテルで待ち合わせる必要もなく、人目につく心配もいらない。
来たい時に来て、帰りたい時に帰れるなら、プライベートを分かち合う必要もない。
面倒なことは一切考えずにお互いの「熱」を利用し合えるなら。
(彼にとってだけじゃなく……わたしにとっても、都合がいい……?)
誰かに心を預けるなんて、当分――もしかしたら、この先一生できないかもしれない。
愛してほしいなんて贅沢は、言わない。
ほんの少しの好意があれば、かまわない。
甘すぎるのは苦手だから、ほんの少しの甘さでいい。
醒めない夢はないと知っているから、ひと時の夢でいい。