DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々


「もか」

「きゃあっ!」


いきなり頭上から降って来た声に、飛び上がる。
振り返った目の前には、壁がそびえ立っていた。


「鍵、開いてたぞ? 不用心だろうが」


首を折って見上げた先には、不機嫌そうな辛島さんがいる。


「そ、そうでした? 今日はいろいろあったから、ちょっと抜けてたかも……あの、おかえりなさい」

「……ただいま」


ぼそっと呟いた辛島さんは、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを取り、ソファーへ。

実用一辺倒の頑丈そうな腕時計を外し、スマホと一緒にテーブルへ。

今度は、ワイシャツを脱いで胸筋を見せつけるかのごとくグレーのTシャツ一枚に。

そして、何を思ったかスラックスのベルトを外し、ファスナーを下ろして……。


「かかかか辛島さんっ! な、何をしてるんですかっ!?」

「ん? 着替えている。スーツにカレーのシミをつけたらヤバイだろ」

「で、もっ」

「心配するな。食べ終わるまで、靴下は脱がない」

(そ、その気遣いはありがたいけれど、そういうことじゃなくっ!)

「着替えは持参している」

「え」


驚きのあまり、目を逸らすのを忘れてしまった。
スラックスを脱ぎ捨て、黒のボクサーパンツ一枚になった辛島さんは、こちらのことなど一切お構いなしに鞄の中から黒のジャージを取り出し……振り返った。


「どうした? 食欲より性欲を先に満たしたいのか?」


ニヤリと笑うその顔は、どう見ても凶悪犯だ。
しかし、恥ずかしさと苛立ちが、恐怖心を押し退けた。


「ちがっ、ちがいますっ! さっさと穿いてくださいっ!」

「遠慮せずに、肉体美を堪能してくれてもいいぞ?」

「わたしは、筋肉フェチではありませんっ!」

「その割には、昨夜触りまくっていたけどな?」


事実だった。
だからこそ、腹が立つ。


(自分だって、わたしに触りまくっていたじゃないの!)


報復は、相手の急所にお見舞いするのが最も効果的なはずだ。


「デザートに、シュークリームを買ったんですけれど、辛島さんはいらないようなので、明日梅乃さんにおすそ分けしますね」

「な、なにっ!? どこのシュークリームだっ」

「駅前の……」


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