DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
店名を告げる前に、辛島さんは速攻でジャージを穿き、冷蔵庫へ突進。
「お菓子は、ご飯のあとです」
ドアを開けようとした手をぴしゃりと叩く。
「香りを嗅ぐだけだ」
「あとです」
「見るだ……」
「あとっ!」
「…………」
がっくりと肩を落とし、すごすごと引き下がり、正座して脱ぎ散らかした服を畳み始めた。
(正座……胡坐じゃなくて、正座。なぜ……)
言葉も態度も荒々しいが、ちょっとした仕草の端々に育ちのよさが窺える。
(掴みどころがないひとだわ)
とりあえず、満たしたいのは性欲ではなく、食欲のはずだ。
テーブルにサラダとカレー、即席で作ったコンソメスープを並べると辛島さんは目を輝かせた。
「美味そうだな」
「市販のルーですけど。お口に合うかどうかわかりませんが、召し上がれ」
「いただきます」
スプーンを握りしめ、見た目を裏切らない食欲を見せた辛島さんは、三杯もカレーをおかわりした。
(念のため、三合分のお米を炊いておいてよかった。辛島さんを一匹飼うだけで、ものすごい食費がかかりそう……)
きれいにすべてを平らげたあとは、ソワソワした様子で冷蔵庫へ視線を投げかける。
「なあ、もか……」
デザートをご所望のようだ。
「砂糖とミルクたっぷりのコーヒーと、ハチミツたっぷりの紅茶。どっちがいいですか?」
「コーヒーがいい。あそこのシュークリームは、カスタードクリームが濃厚で、シュー生地も甘味があるから、俺はコーヒーと相性がいいと思っている」
すばらしい分析力。
どうしてパティシエやケーキ屋ではなく、建設業を職に選んだのか、謎だ。
シュークリームを二個食べて、コーヒーというよりもコーヒー牛乳に近い状態のキャラメル色の液体を飲み干した辛島さんは、「満腹だ!」とご満悦だった。
お皿を洗うと言われたが、破壊の予感しかしなかったのでお断りしたところ、図々しくもソファーに寝そべっている。
ここが他人の家とは思えぬくつろぎ具合だ。
身体の半分は、ソファーからはみ出しているが。
「で、今日一日働いてみてどうだった? 梅乃と上手くやっていけそうか?」
辛島さんは、片づけを終えたわたしがラグの上に舞い戻るなり、手にしていたスマホからこちらへ視線を寄越す。
「はい。梅乃さんは、とても親切で、教え方も上手いので。なんとか頑張れると思います」