DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「そうか。梅乃が、もかのウエディングドレス姿をアップするから、俺にも見てほしいと言ってきたんだが、写真は?」
「えっ」
「あんだろ?」
「あ、ある、けど……」
「ほら、早く」
大きい手をヒラヒラさせて要求され、渋々スマホを預ける。
詐欺まがいのわたしの写真を眺め、しばし無言になる辛島さん。
「あの……ど、どうでしょうか。売れそうですか?」
「ああ…うん……よく撮れている」
欲しかったのはそんな言葉ではない。
でも、傷つくなんておこがましい。
さっさとスマホを返してもらおうと手を差し出したが、辛島さんはわたしに背を向け、何やら怪しい動きをしている。
「辛島さん、何をしてるんですか?」
「もかの写真と一緒に、連絡先を俺のスマホに送信した。ついでに、俺の連絡先も登録しておいた」
「ち、ちょっと! 勝手に何してるんですかっ!」
「この先、仕事を頼むためにも連絡を取り合う必要がある」
なぜ写真も一緒に送る必要があったのか。ツッコミたいところだったが、それよりも気になる発言があった。
「あの、仕事って?」
「俺の代わりに、ある物を引き取りに行ってほしい」
「ある、物……」
路地裏で、あたりの様子を窺いながら紙袋なんかをやり取りする光景が脳裏に浮かぶ。
紙袋の中身は、鉄でできたアレ。そう、「け」から始まる……
「ケーキ屋は、閉店時間が早いんだよな。『Souvenir』は、昔馴染みのよしみで閉店時間を過ぎても対応してもらえたが、他の店ではそうはいかない」
「ええと……?」
「ケーキは生ものだから、店側も翌日引き取りでもいいとは言えないし、こちらとしてもなるべく当日に消費したい。さすがに、何度も部下を私的な用事で使うのはマズイしな。梅乃の店は、平日は六時に閉店するし、残業は九十九パーセント発生しない。よって、もかにはケーキの仕入れと運搬を頼みたい」
「ケーキの仕入れ……運搬……」
なんとも平和な頼みだ。
愛人とかセフレとか運び屋とか、見当ちがいの妄想を繰り広げていた自分が恥ずかしい。
「もちろん、ケーキ代は俺が支払うし、報酬も支払う。交通費もだ」
「ちなみに、報酬はいくらですか?」
時間給で千円くらい、お小遣い程度を予想していたが、辛島さんが口にしたのは破格の報酬だった。