DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「一回につき、一万円でどうだ?」
「い、一万円っ!? 高すぎるでしょうっ!」
特殊な技能など必要としない、ただ物を受け取り、運ぶだけの仕事に一万円はないだろう。
ヤバイものならまだしも、「ケーキ」だ。
そう思ったが、辛島さんは真面目な表情で理由を説明する。
「実質、残業させるようなものだろ。梅乃の店から、依頼先を経由してマンションまでタクシーで移動するとしても、場所によっては小一時間かかることもある。高すぎるとは思わないが?」
「でも……」
「急に予定を変更したり、突然依頼したりすることもあるかもしれねぇ。もちろん、キャンセルした場合でも報酬は支払うし、突然の依頼の時は倍額を支払う」
「でも……」
急な予定の変更にまで対応するとなると、毎日拘束されているようなものだ。
それを考えれば、一回一万円という設定は高すぎるものではないのかもしれない。
要領のいい人間なら、こんな時、ラッキーと言ってあっさり頷くのかもしれないが、モヤモヤする。
与えてくれるものを素直に受け取れない性分は、二十八年かけて築き上げられたもので、どうしようもないのだ。
面倒くさい女だと言われてもしかたない。
そう思っていたら、辛島さんは新たな条件を付け加えた。
「報酬が多すぎると思うなら、カフェやレストランでしか食べられないヤツを試すのに、付き合ってくれればいい」
「え?」
「男ひとりじゃ、入りづらい店も多いんだよ。もかと一緒なら、カモフラージュできるし、二人分頼めるし、一石二鳥だ」
実際に、苦い経験をしたことがあるのか、辛島さんの表情はとても悲しそうだ。
ごく普通の男性でも、女性ばかりの店には入りづらいと思われる。
それが、辛島さんとなると……。
(入店拒否されるかも)
柚子に比べれば、凶暴でも何でもない人だが、見た目が中身を裏切っている。
それこそ、梅乃さんのお店のようにファンシーな店で、生クリームたっぷりのパンケーキとか、フルーツたっぷりのパフェとかをひとりで味わっている辛島さんの姿を想像し、首を振った。
(シュールだわ。シュールすぎる……)
「どうだ?」
「いい、ですけど……そんなに甘いものばかり食べて、辛島さんの健康状態は大丈夫なんですか? いくら仕事でも、病気になりそうなことに加担するのは良心の呵責が」