DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
甘いもの=身体に悪いわけではないけれど、何でも食べ過ぎはよくない。
辛島さんは、ちょっとびっくりしたような顔をし、ついで破顔した。
「俺の身体の心配までしてくれるなんて、もかは優しいなぁ」
「優しく、なんか……ないですよ」
(また、わたし余計なこと言って……)
恋人でも、妻でも家族でもないのに、と俯きかけた頭を大きな手が撫でる。
「大丈夫だ。食べた分は消費すればいんだよ。そういう意味でも、この仕事はもかにしか頼めねぇ」
(それは……)
自意識過剰かもしれないが、その言葉の意味を勘繰らずにはいられない。
おずおずと顔を上げると眼光鋭い目に出会う。
「とりあえず、契約成立でいいか?」
決して脅されているわけではないが、頷くことしかできなかった。
「よし! じゃあ、帰るわ」
「え」
「明日、早ぇんだよ。経費削減だとかで、早朝便なんか取りやがってっ! 単なるイヤガラセだろ。たぶん、半月くらいは留守にすると思う。帰って来たら、連絡する」
綺麗に畳んだ服と鞄を手に、あっさり玄関へ向かう大きな背を思わず追いかけた。
「辛島さんっ」
振り返った辛島さんは、凛々しい眉を八の字にしている。
「あのなぁ、もか。俺は、シたいと思ってねぇ女を抱くほど、野獣じゃねんだよ」
「……あ、の」
わたしが何を考えていたのか、すっかりお見通しの辛島さんに、何の反論もできなかった。
「半月、欲求不満で悶えてろ」
「よ、欲求不満なんかじゃないですっ!」
むきになって言い返すわたしに、辛島さんは豪快な笑い声を響かせながら、ドアの向こうに消えた。