DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
『今日帰る。「りんごの家」のパイが食いたい』
辛島さんから、「運び屋」の最初の依頼が入ったのは昨日の夜。
彼の義姉である梅乃さん情報によれば、南の島のどこかに行っていたらしい。
帰国のお知らせは梅乃さんにも伝わっており、
『桃果ちゃん、今日は早く上がっていいわよ? トラちゃん、帰って来るんでしょ?』
と言ってくれたのは、彼がわたしに依頼している仕事を知っていたからだと思われる。
(それにしても、三ホールなんてどうやって食べきるのかしら……)
さすがに、三箱を抱えて帰宅ラッシュの電車に乗るなんて、無謀でハタ迷惑な真似はできず、タクシーを利用。
マンションに帰り着いたのは、いつもとあまり変わらぬ時間だった。
(そう言えば、夕食……)
今日は、冷蔵庫のハンパ野菜たちを処分するのに、具沢山のミネストローネと鶏肉の香草焼きを作るつもりだった。
(ちょっと多めに作って、もし食べるようなら出せばいいわよね? いらないようなら、明日自分で食べればいいんだし)
わざわざ、辛島さんに夕食をどうするのか訊ねるのは何だか押しつけがましい気がする。
部屋に辿り着き、壁と身体でパイの箱を挟みながら、鞄の中から部屋の鍵を取り出そうとしていたら、唐突に隣の部屋のドアが開いた。
「あ! おかえんなさい、姐さん」
(あ、姐さんって?)
聞き慣れない、呼ばれ慣れない呼称に顔を向ければ、金髪でちょっと小柄な若者がいる。
Tシャツの袖からはみ出ているタトゥーは、引っ越しの時に見かけたものだ。
「た、ただいま?」
反射的に挨拶を返すと、その背後からもう一人現れた。
「あーっ! 抜け駆けはずるいっすよ、ヤスにぃ!」
「抜け駆けってなんだ。おめぇがゲームしてっからだろうが、タツ」
タツと呼ばれた若者は、ドレッドヘアを編み込みにした手の込んだ髪型をしている。
ヤスにぃと呼ばれた彼よりはいくぶん年下のようだ。
唇を突き出しで反抗的な態度を見せたが、手にしていたロリポップを口に放り込むと、わたしと壁の間に挟まっていたパイの箱をひょいっと取り上げた。
「トラさん、ちょっと遅くなりそうなんで、預かっておくっす!」
「えっと……」