DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「「お邪魔しまーす!」」
若者二人はわたしの誘いにホイホイ乗り、あっさりこちらの部屋へ上がり込む。
「うわー、美味そう……こんな美味そうなの、トラさんに食わせるのもったいない!」
「たくさんあるから、遠慮せず食べて」
「「うぃっす! いただきます!」」
二人は、若者らしく旺盛な食欲を見せたが、先にアップルパイを食べていたこともあり、辛島さんほどではなかった。
食べ終わると、タツはお皿を洗ってくれ、ヤスにぃはコーヒーを淹れてくれた。
辛島さんとちがい、二人がキッチンに立っても何の危険も感じない。
「「はー、ほんと美味かったっす。ごっつぁんです、姐さん!」」
「どういたしまして」
(お腹も一杯になると、気が緩むはず……)
コーヒーをひと口啜り、そろそろ探りを入れようと口を開きかけたら、タツに先手を打たれた。
「ところで姐さん。トラさんのこと怖くないんっすか?」
「え。あ……さ、最初は怖かったけど、最近はそれほどでも……」
「いやぁ、あのトラさんを家に上げるとか、猛獣を家に入れるようなもんじゃないっすか? もかねぇは、すげぇ度胸あるなぁって感心してたんっすよ。ね? ヤスにぃ」
「ああ」
(も、猛獣……)
「話してみれば、見た目と中身はちがうってわかるんですけどね。そもそも近づいただけで逃げられるんで、話にならないってことで」
「でも、アッチの方は巧いと思うんっすよねー。どうでした? もかねぇ」
動揺のあまり、マグカップをすっ飛ばしそうになった。
(あ、アッチって……あれのことよねっ!?)
「バカ、ナニ訊いてんだよ、タツ! 本当のことなんか、言えるわけねぇだろ。こうして、逃げずに付き合ってるってことは、よかったってことじゃねぇか」
タツを叱りつけたヤスにぃが、余計な見解を付け加える。
「それもそっか。ダメだったら、逃げてるか」
耳がジンジンするくらい、顔が熱い。
こちらを見る二人のニヤついた顔を思い切り睨みつけたけれど、真っ赤な顔では威嚇も脅しも効果はないだろう。
「トラさんも、姐さんを気に入ったみたいっすね? 梅乃姐さんのところに預けるなんて、さっそく囲い込む気満々じゃないっすか」
「もかねぇも、こうしてメシ作ってくれるってことは、トラさんの胃袋掴む気あるんだろうしぃ? ねぇ?」
(さ、探るはずが、探られているんだけど……)
「なあ、姐さん。あんな見てくれですけど、トラさんは優しいっすよ?」
「女子どもには好かれないけど、野郎と動物には好かれるっす」
「面倒見がよくて、義理人情に厚いし」
「怒らせると、怖ぇけど」
「意外と賢いし」
「意外じゃねぇだろ。大学出てんだからよ」
(えっ!)
「なんとか理科大だっけ?」
「TK理科大だよ」
「そっか。女子がほっとんどいなくって、天国のようだったって言ってたっけ」
「だな。あの人、歩いてるだけで通報されるからな」
「でも俺、男しかいないとこで勉強なんかできねぇ」
「おめぇは、何しに大学通ってんだよ? タツ」
「暇つぶし。もう単位取り終わってるし」
「だったら、働け!」
「働いてるって! あんまり研究所に籠ってるとひ弱になるって、トラさんに連れ回されてるだけ。あのひとと比べりゃ、誰でもひ弱だっつーの」
「そうだな。トラさん、やんちゃしてたころ、片手でバイク止めたって逸話あるし」
「俺、脱輪した軽トラを素手で引っ張り上げったって聞いた!」
「同じ名前だから、見捨てておけなかったんだろうな」
「わはは!」