DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
(TK理科大って……素手でバイク……軽トラ……な、何者なの、辛島さん……)
情報を聞き出して、辛島さんを知る手がかりにするはずが、ますます謎は深まり、ますます正体不明だ。
「あー、俺らそろそろ帰ったほうがいいかもな。タツ」
辛島さんが残した眉唾ものの伝説の数々をあげつらい、さんざん笑っていた二人だが、唐突に真顔になった。
「そっすね。なんかこう、トラさんの気配がする」
野獣と生活を共にすれば、野生の勘が働くようになるのかもしれない。
彼らがそそくさと帰り支度を始めた瞬間、わたしのスマホが震え出した。
「も、もしもし……?」
『戻った。こっち、来られるか?』
挨拶もなしに、用件を述べたのは辛島さんだ。
久しぶりに聞く声に、耳がじん、とする。
若者たちは電話の相手が誰かを悟ったようで、忍び足で玄関へ行き、特殊工作員にでもなれそうな手際の良さで、音もなく出て行った。
「は、はい。でも、あのお鍋が……」
『は? 鍋?』
「スープとか、鶏肉とか運ばないと……」
『…………』
電話の向こうで沈黙する彼に、もしかしてあれは彼らのリップサービスだったのかと、不安になる。
「あの……でも、あの、特別作ったわけではなくて、夕食をもしまだ食べていなければと思っただけでっ」
『そっち行く』
「はい?」
ブツッと電話が一方的に切れて十秒。
いやがらせかと思うほどピンポンを連打される。
ドアを開ければ、わたしが買ったアップルパイの入った箱を手にし、何かが大量に詰まった麻袋を手にした辛島さんがいた。
ジーンズにTシャツというラフな格好で、無精髭が伸びていて、裸足にサンダル。野生児のようだ。
「こ、こんばんは。お、おかえりなさい」
「おう」
こちらが勧める前に、上がり込んだ彼は、まっすぐキッチンへ。
コンロの上にある鍋やフライパンを覗き、炊飯器が「保温」になっていることを確かめて、目を輝かせた。