DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「食っていいんだよなっ!? もかは?」
「え、あ、わたしもまだなので。いま、用意しますね?」
「何か手伝えることはあるか?」
用意すると言っても、温めて皿に移すだけだ。
それに、辛島さんの大きさは……はっきり言って、邪魔だ。
「大丈夫です。座っててください」
「そうか? すまんな」
「いえ。ついでですし」
辛島さんは、今回もミネストローネを一回、ご飯を二回おかわりし、気持ちいいくらいの勢いで食べてくれた。
食後のデザートは、もちろんアップルパイ。
三つのアップルパイは、それぞれちがう種類のリンゴを使っていた。
辛島さんは、パイをきっちり三等分し、ワンホールで三つの味が楽しめるように組み合わせているようだ。芸が細かい。
「アップルパイ、ありがとうな。あそこは予約ができないから、なかなかチャンスがなくて」
「そうみたいですね。整理券もらうのに並んで、今度はお店に入って買うために並ぶなんて、初めて経験しました」
「立ちっぱなしだったろう? あとで、マッサージしてやるよ」
「えっ」
「本場のタイ古式マッサージは効くぞ」
「いえいえ、大丈夫です」
「台湾式足裏マッサージのほうがいいか?」
「いえ、痛いのは苦手なので」
「じゃあ、ロミロミを……」
「大丈夫ですからっ!」
「そうか……」
普通なら、セクハラと取られてもおかしくない発言だが、しょんぼりしている辛島さんはいたって真面目だ。
各種マッサージにも精通しているのは、本当なのだろう。
短い付き合いだが、どうしようもない嘘を吐くひとではないと思う。
「あの、辛島さんのマッサージがイヤというわけではなくて、くすぐったがりなのでマッサージとか苦手なんです。会社勤めをしていた時は、疲れを取るのに温泉やスパに行ってました」
「温泉かぁ……しばらく行ってないなぁ」
「わたしもです。家のお風呂だと、なかなかくつろげないですよね。わたし、田舎育ちなんですけれど、村に湯治客が来るような温泉があって。村人は格安で利用できるから、しょっちゅう祖母に連れられて、温泉に浸かってました」
「羨ましい環境だな」
「まあ、あの頃はお風呂上りに祖母が買ってくれるビン牛乳が目当てでしたけど」
「いまどきビン牛乳? 懐かしがる人、多いだろうなぁ」