DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「なぁ、もか。いま、自分がどんな顔してるか、わかってんのか?」
そんなことは、言われなくてもわかっていた。
彼のことはわからなくても、自分のことはわかる。
自分が、どれほど彼に会いたかったか、わかっている。
彼の声を聞き、その存在を感じ、コワモテが優しく緩むのを見て、ほっとしている自分に気づかぬほど鈍感ではない。
「その気もないのに、挑発すんな」
「その気もないのに、思わせぶりなことしないで」
わたしの言葉に、ハッとしたように目を見開く。
身体だけの関係は虚しいとひとは言う。
けれど、身体すら求められない関係は、「虚」しいを通り越して「無」ではないかと思う。
目の前にいれば、触れたくなる。
触れれば、重なりたくなる。
重なれば、自分だけのものにしたくなる。
ひと時の夢でいい、なんて嘘だ。
何度も繰り返し見る夢でなければ、満足できない。
愛情があれば、心も身体も満たされる――、
そんな境地に至るには、わたしはあまりにも欲深い。
「ひま潰しの相手を探しているなら、ほかを当たってください」
立ち上がり、彼を追い出すべく玄関のドアを開けにいこうとした腕を引かれ、倒れ込む。
間近に見上げる人の表情は強張っていて、優しい笑みも、陽気な笑みも、意地悪な笑みも見当たらない。
不確かな未来を信じるよりも、いまある安寧を、いま手に入る温もりを求めて、何が悪いというのか。
聖女でも、聖母でもない、ただの女が求めるのは、崇高な愛でも、純粋な恋でもない。
自分では進めない暗闇に、ほんの少しばかりの光を注ぎ、誰が埋めてくれるとも知れぬ空白を、ほんの少しばかり埋めてくれるものが欲しい。
いますぐに。
「アンタ、よくわかんねぇ女だよな。初心なくせに、煽るし。冷めていそうで、熱いし。流されそうでいて、流されねぇし。大人しそうに見えて、気が強ぇし。慎重かと思えば、大胆だし」
苦笑しながら起き上がった彼の唇が喉を伝い、鎖骨を辿る。
短気だという彼は、手早くわたしの服を脱がせると抱え上げ、さっさとベッドへ移動した。