DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「け、結婚っ!? そんなわけないじゃないですか! 梅乃さん、びっくりさせないでください」
いろんな意味で心臓をバクバク言わせながら振り返ったわたしに、梅乃さんは腰に手を当て憤然と主張する。
「トラちゃんったら、まだプロポーズしてないのっ!? 短気だけど妙なところで弱腰なんだから! あんなコワモテ、もかちゃんを逃したら次はないのにっ」
「そ、それは……確かに、見た目は怖いですけど、中身を知ればそうではないとわかると思います。時間をかけて知り合えば、何もわたしじゃなくても……」
「時間をかけるどころか、会った瞬間に逃げられては、どうしようもないじゃない!」
「はぁ……まぁ、そうですね」
初対面で辛島さんと目が合って逃げ出さずにいられるのは、柚子のように手強い相手ほど闘争心が燃え上がるタイプか、わたしのように怖すぎて足が竦んで逃げ遅れるタイプかのどちらかだろう。
「トラちゃんが、まともに女性と話す姿を目撃したのは、幼稚園の時以来よ。桃果ちゃんは、救世主なのよ!」
「幼稚園……」
かろうじて、幼稚園児の時はコワモテではなかったらしいと知り、その頃の彼の写真を見てみたいと思った。
「そりゃあ、トラちゃんみたいな子どもが生まれたらどうしようと思う気持ちはわかるわ。でも大丈夫。辛島家でコワモテなのは、トラちゃんだけなの。あとはみーんな童顔で甘いマスクなのよ! ほら!」
梅乃さんが突き出したスマホの画面には、彼女と一緒に写る男性の姿が。
辛島さんと兄弟だとはとても信じられない、甘い笑みを浮かべている。