DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
(お兄さんやほかのご家族が甘い顔立ちだったとしても、肝心の父親がコワモテなら、コワモテになる率は単純に考えて五十パーセントになるのでは? 好きなひとと自分の子どもなら、どんな容姿だってかわいいと思うけど……)
ありもしない未来を思い描きそうになり、梅乃さんの妄想ごと否定すべく、現実を口にする。
「あの、でも、わたしたち、お付き合いしていないんです」
「週に何度も会っているなら、お付き合いをしているようなものじゃない」
「それは……」
確かに、辛島さんとは週に二、三回会っている。
依頼されたケーキを渡すついでに、夕食をおすそわけしたり。
時と場合と雰囲気によっては、そのままわたしの部屋に彼が泊まっていったりすることも、ある。
泊まりの時は、当然のことながら、まあ……肉体関係もある。
しかし、それは恋人同士の逢瀬なんかではなく、どちらかというとなし崩し……いや、仕事の延長線上のようなものだ。
彼に依頼され、いろんな店のいろんなケーキや焼き菓子を購入し、マンションに持ち帰るついでに、ご飯を一緒に食べたり、お互いの欲求を満たしたりしているだけ。
そんな関係に、付ける名前はない。
「恋人」と言い切るには曖昧で、「セフレ」よりは濃密。
「恋人」よりは自由で、「セフレ」よりは不自由。
友情よりは重く、愛情よりは軽い。
何の約束もない繋がりが、気楽で、心地よかった。
彼が不誠実なわけじゃない。
曖昧な関係を望んでいるのはわたしのほうだ。
いつまでもこのままでいいとは思っていない。
けれど、
壊れるくらいなら、最初から何も作らないほうがいいのではないか。
そう思ってしまうのだ。
「明日の日曜日、トラちゃんも久しぶりにお休みみたいよ。二人でどこか出かけたら? もかちゃんから誘われたら、飛び上がって喜ぶと思うわよ」
半月ほどの出張から帰って来てからここ一か月。
辛島さんは、国外へ出張することはなかったけれど、一泊二日や二泊三日の国内出張が毎週のようにあった。
しかも、月曜の朝一で現地入りするために日曜日を移動日に当てるため、ファンシーなカフェで甘いものを堪能する、という彼の野望はまだ果たせずにいる。
「そう、ですね」