DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「猫好きなんですね、辛島さん」
「猫に限らず、動物全般好きだ。まあ、警戒心の強いヤツには怯えられて、なかなか仲良くなれないが、人間ほどじゃあない。コイツらと意思疎通を図る方が楽だ」
「そ、そうですか……」
(辛島さん、いい人なのに……優しいのに……)
人間よりも動物とのほうが意思の疎通が図りやすいなんて、不憫すぎる。
「もかは、猫と犬ならどっちが好きだ?」
「そうですね。祖母の家には、どっちも居ついてましたけど、一緒に遊んでくれたのは犬ですかね。辛島さんは?」
「そうだな。しいて言えば、猫だな。犬だと、仕事が忙しくなると散歩に連れて行ってやれそうにないからな」
「それって、本当は犬が好きだけど、かわいそうだから猫にするってことですか?」
「まあ、そういうことになるな。でも、俺がいない時でも面倒を見てくれる人がいれば、犬を飼う」
「他力本願ですか」
「バーカ。家族がいたらって話だよ」
危ない質問だと思った。
けれど、勝手に口が動いて止められなかった。
「結婚、したいんですか?」
「ん? まあな。前はそんなこと思っちゃいなかったが、誰もいない部屋に帰るのがわびしいと思うようになった」
「…………」
「人間も、帰りたいと思う場所ができたら、帰巣本能ってやつが働くのかもな?」
心臓がきゅっとなって、鼻の奥がツンとする。
涙の気配を散らすように、膝の上に乗ってきた猫を抱き上げた。
「もか、明日も休みだよな?」
「そうですけど……」
「俺も休みだから、ちょっと遠出するか」
「遠出?」
「予定あるか?」
「……ないですけど」
出かける気力も体力もなく、しばらく旅なんてしていなかった。
思えば、元カレと旅行をしたのも同棲するまで、付き合っている間だけだった。
「行き先は?」
「行きたいところはあるか?」
「べつに……ない、です」
すっくと立ちあがった彼から、猫たちが飛び降りる。
差し出された手は、大きく無骨。
でも、温かく、わたしに触れるときはとても優しいと知っている。
手を重ねると程よい力で引っ張り上げられた。
「行き先は、着いてからのお楽しみだ」
ニヤリと笑った彼の顔は眩しくて、もう凶悪犯になんかには見えなかった。