DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「え、ええ。小さい頃、祖母とこの村で暮らしていて……」
「もしかして……甘利さんところの、桃果ちゃん?」
ズバリと言い当てられ、驚いた。
「そ、そうですけど……」
「いやあ、懐かしいなぁ! おじさんのこと、憶えていない? 隣の山方のさ……」
ふと、いつも祖母に頼まれて、日用品などを届けてくれていた人の姿が鮮明によみがえった。
「一郎おじさん!」
一郎おじさんは、祖母の家から三百メートルほど離れた場所に住んでいたお隣さん、山方家の長男だ。
実家の農業を手伝ったり、役場の仕事を手伝ったり、はたまた近隣の高齢者の御用聞きのようなこともしていたりと、いまでいう便利屋のような存在。
気さくで、陽気で、子ども好きで。
嫁が来てくれないことよりも、村を離れるほうが辛いという、地元愛あふれる人だった。
「そう、一郎だよ。憶えててくれて、嬉しいなぁ。それにしても……桃果ちゃん、すっかり大人になっちゃって。結婚したんだね?」
「え、い…」
「桃果から、ここの温泉はとてもいいと聞いていて、ぜひ訪れたいと常々思っていたんです。珍しく、一緒に連休を取れたので、この機会を逃したくなくて。急な予約に対応してくださって、ありがとうございます」
何を思ったか、夫婦を装う辛島さんに、唖然とする。
「いえいえ、ご覧のとおり、休前日でもない限り、大繁盛ってこともないんで、大丈夫ですよ」
「わたしたちとしては、静かにゆっくり過ごせるのがありがたいです」
「はは、そう言っていただけると嬉しいです」
案内された部屋は二間続き。畳敷きの和室だが、洗面所やトイレ、ユニットバスなどは洋式。
小さいながらも客室露天風呂もあり、この宿で一番いい部屋だと思われた。
「客室露天は、夜に月を見ながら入るのも乙ですが、東向きなので朝風呂がオススメです。天気次第では、朝焼けが見られますよ。朝食は七時から九時の間、大広間にてご用意いたしております。ご夕食は、お部屋にご用意いたしますが、七時でよろしいでしょうか?」
「はい。ひと風呂浴びて、ちょうどいい時間だろ? もか」
「え、ああ、そうですね」
「食べられないもの、アレルギーなどはありますか?」
「ないです」
「では、ご夕食後は、ゆっくりおくつろぎいただけるよう、入浴されている間にお布団を敷かせていただきますね。フロントにお声がけください。桃果ちゃん、ゆっくりしてってね」
「はい、ありがとうございます」