DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
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「いやあ、いい風呂だった。この近くで、渓流釣りもできるんだってな? 桜の穴場もあるらしいし。紅葉にはちょっと早いが、山頂の見晴台からの絶景は一見の価値があるって、ライダーが言ってた」
男風呂で、地元民や旅人からさまざまな情報を聞き出したらしい。
コワモテの辛島さんは、女性には敬遠されるが男性には慕われるようだ。
夕食は、山菜と地元の野菜をふんだんに使った和食。何ら目新しいものはない、古き良き旅館を思わせるオーソドックスな献立だったが、素材から丁寧に作られた料理は優しい味。
なかでも、辛島さんの一番のお気に入りは甘酒のアイスクリーム。ぜひとも通信販売を展開すべきだと仲居さんに力説していた。
「……食べすぎた」
「でしょうね。おひつのご飯、二合はありましたよ」
「新米で、美味かったからな」
ゆっくり時間をかけて食べていたので、すでに時刻は九時を回っていた。
部屋にテレビはあるけれど、心地よい静けさを破りたくなくて、BGMはコオロギの鳴き声だけだ。
「もか、今夜は早めに寝るぞ。朝日を見ながら朝風呂に入らなきゃならないし、宿を出たら展望台にも寄らなきゃならん。梅乃たちに土産も買わないとな。地元の特産品を買える場所があるらしい。さっき、フロントで地図を貰った」
「辛島さん、わたしよりこの土地に詳しいです」
「そこに住む人を知るためには、その土地を知るのが当たり前だからな。ま、その逆もあるが。何事も、情報収集は大事だ。おい、もか。寝る前に露天に入ってみるか?」
「うん。入る」
自分で誘っておきながら、辛島さんはぎょっとしたように目を見開いた。
「冗談だったの?」
「いや、本気だ」
「じゃあ、早く入りましょ」