DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
昨日までのわたしなら、きっと首を横に振っただろう。
でも、いまはもっと辛島さんに近づきたい。
彼が歩み寄ってくれた分、後退りするのではなく、わたしも歩み寄りたいと思う。
彼の一歩は、わたしの二歩にも及ぶだろうけれど、わたしからも一歩踏み出せば、もっと早く近づくことができる。
「先に入ってますね?」
時間をかければかけるほど恥ずかしくなるので、さっさと浴衣を脱ぎ捨てて部屋を出た。
ひんやりした夜の空気が、火照り始めた肌に心地よい。
静かに白い湯けむりを上げるピンと張った水面にそっと足を入れ、目を伏せる。
じんわり広がる熱を味わっていると、背後から伸びて来た腕に抱きしめられた。
「温泉につかりながら、月ともかの両方を楽しめるなんて、贅沢だな」
「湯あたりしたくないから、長湯はしません」
「ああ、わかった」
不埒な気配を背後に感じて先に釘を刺したのに、大きな手は返事と裏腹な行為に及ぼうとする。
「辛島さん?」
胸元に伸びて来た手を引き剥がそうとするが、腕力の差は歴然。
敏感な耳の後ろに息を吹きかけられて、竦んでしまう。
「ちょっと……やぁっ……」
「あんま声上げんなよ? 俺らのほかに客はいないと言っても、従業員はいるんだから」
「だったら、こんなことしないでっ!」
「そのお願いは聞けねぇな。誘ったのは、もかだろ」
「わたしが、いつっ」
「一緒に風呂に入るってことは、こういう展開になるってことだ」
「そん、なっ」
「早く上がりたいんだろ? だったら、協力しろ。こっち向けよ、もか。声、出ねぇようにしてやるから」
あらぬところに触れられて、思わず悲鳴を上げそうになり、唇を噛む。
「もーかー」
密室の浴室でさえこんなことをしたことがない。
それなのに、遮るもののない露天でなんて、恥ずかしすぎる。
けれど、このまま解放されたら、それはそれで膨れ上がった熱を持て余すことになるのは確実だ。
(何なの……何なのよ、もうっ! この、野獣っ!)
悔しさと恥ずかしさでいっぱいになりながらも、抗えない飢えに押されて、ゆっくりと振り返る。
満足げに笑う憎たらしい顔を睨み、腹いせにその耳を思い切り引っ張ってやった。