DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々


「いてててっ! おい、もかっ! ちぎれるっ!」


羞恥心をどこかに置き忘れてきたらしい獣は、慌ててわたしの手を取り上げ、「はぁ」と溜息を吐いてから、何の断りもなく腰を引き寄せた。

驚きに上げかけた叫びも、漏れてしまいそうになる甘い嬌声も、うわ言のように呟く名前も、大きな口に塞がれ、呑み込まれてしまう。

不安定で、窮屈で、もどかしくて、だからこそより一層求めたくなる。

いまにも消えようとしている理性が、警鐘を鳴らしていた。
ふと目を開ければ、夜の闇より深い黒を宿した目と出会い、同じことを考えているのがわかった。

どちらも、止めるにはもう手遅れだと悟っていた。

互いの悲鳴と咆哮を呑み込んで、震える身体を強く抱きしめる。

呼吸の音だけが耳に響く。

あまりの衝撃に、何もかもが吹き飛んでしまったかのように、わたしの中はからっぽだった。


「もか……もういいよな? そろそろ、昇格させてくれ」


ぐったりと広い肩に預けていた顔を上げると、濡れた唇が重なった。

その瞬間、からっぽだったわたしの中は、彼で埋め尽くされ、息もできないほどの「何か」があふれ出す。


「泣くほど気持ちよかったか。そうかそうか」

(ちがうわよ! バカっ)



誰がどう見ても、極悪人にしか見えない笑み。

それが、この上なく甘く、優しく見えるなんて、




わたしはきっと、どうかしてしまったのだと思う。


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