DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
本人は、現場で働きたがっているが、辛島さんは観察眼が鋭く、視野も広い。コミュニケーション力もある。語学だって堪能なようだし、彼の仕事ぶりを知らないわたしでも、人の上に立つのに向いていると思う。
「へぇ? 実は出世頭なんじゃないの? 名前、何て言うんだっけ?」
「虎之介さん」
「また古風な名前ね。でも、意外と多いのかな? 実は……」
話の途中で、スタッフが入場の準備をしてくれと柚子を呼びに来た。
わたしは彼女より先に式場へ入らなくてはいけないので、さらに急がなくてはならない。
「じゃあ、あとでね。桃果」
「柚子、挙式で泣きすぎないようにね? 涙は、両親への手紙まで取っておきなさいよ?いくらウォータープルーフでも、限界があるんだから」
「泣くわけないでしょ。わたしが」
凶暴極まりない柚子だが、意外と涙もろいところもある。
特に、誰かが泣いているともらい泣きする。
きっと、彼女のご両親は安堵の涙を流すだろうし、花婿は歓喜の涙を流すだろう。
そして、柚子はそんな彼らに感謝の涙を流すにちがいない。
(でも、幸せな涙なら、いくら流してもいいわよね)
もらい泣きしない自信はなかったので、仕立て直す際に作ってもらったスカートのポケットには、しっかりレースのハンカチが仕込んである。