DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
挙式の後、ものすごい勢いでスマホを操作し、インターネットで調べた結果、これまで見過ごしていた数々の事実を発見した。
辛島さんのお兄さん、龍之介さんが経営しているのは(株)辛島組。中規模の土木建築会社で、別のお仕事をするような「組」ではない。
辛島家の次男である辛島さん――虎之介さんは、もともとお兄さんの会社で働いていたところを母方の叔父が経営する西園寺建設に引き抜かれ、転職。
各部署を転々とした後、三十歳でCOO――最高執行責任者に抜擢され、社内外で次期代表取締役社長と目されているらしい。
コワモテだけれど凶悪犯でも極悪人でもない彼は、普通ならば一般庶民のわたしと出会うことも、言葉を交わすこともなさそうな、雲の上の人だった。
「デスクワークのくせに、日焼けしすぎです」
「もともと地黒なんだ」
「そんな筋肉、必要ないでしょ……」
「筋トレが趣味なんだ」
「その顔で横文字の肩書なんて、似合わないじゃないですか」
「顔は関係ねぇだろうが! それに、俺が好きで付けたんじゃねぇよ! いまどきの流行りなんだよ!」
「COOだなんて……凶悪犯みたいなのに」
「おいっ!」
責めたいわけじゃない。
わたしが勝手に妄想していただけで、彼が騙していたわけではない。
スーパーゼネコンのCOOという雲の上のような地位にあろうと、泥まみれになって南の島で橋や道路を作っていようと、辛島さんは辛島さんだ。
彼がわたしにくれたものがなくなるわけでもないし、その中身が変質するわけでもない。
わたしたちの関係が、劇的に変わる要素もない。
けれど、予想外の不意打ちに混乱した頭と心が、ちぐはぐな行動を取らせる。
根拠のない不安が押し寄せて、落ち着かない。
支離滅裂、どうでもいいようなことをあげつらうわたしにうんざりしたのだろう。
辛島さんはそっと溜息を吐いて、話を切り上げた。
「ここじゃあ、何だ。あとで話そう。今夜、そっち行くって約束してただろ」
「……はい」
「俯くのはよせ。あの二人に、余計な心配をかけたくないだろ?」
テーブルの下、膝に置いた手を握る大きな手は、いつものように温かくて、優しい。
けれど、そこから伝わる熱は、
いつものようにわたしの胸の奥まで届くことはなかった。