DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々

「もか?」

「い、いま行きますっ!」


急いで玄関へ向かい、ドアを開ければ、昼間のタキシード姿から一変、Tシャツにジャージ姿の辛島さんがいた。


「遅くなって、すまん」

「いえ……お疲れ様です。お仕事、無事終わりましたか?」

「ああ。仕事より、結婚式のほうが疲れた」

「辛島さんの立場だと、周りの目も気にしなければならないですもんね」

「もか」


咎めるような声を無視し、話題をねじ曲げる。


「クリスマスケーキ、用意したんです。食べます?」


避けられない話題をできるだけ先延ばしにしたくて、ヘタクソな笑顔を作る。


「……食べる」

「見た目はちょっとアレなんですけど、味は……食べたらきっと驚くと思います」


冷蔵庫から取り出したケーキは、それらしくデコレーションしてはあるが、スポンジの形は歪だし、絞り出した生クリームの山も凸凹、その上に乗せたイチゴは傾いでいる。

あらゆるケーキを食べつくしている辛島さんの目は、ごまかせない。


「これ……手作りか?」

「見た目も味も、塩原オーナーと同じというわけにはいきませんでしたが、近い味にはなったと思います」

「塩原さんって、『Souvenir』の?」

「クリスマスプレゼントに、オーナーがレシピを教えてくれたんです」


わたしの説明を聞くなり、辛島さんは切り分けるのも待たず、いきなりホールケーキにフォークを突き刺した。

そのままバクバクと八分の一を平らげて、頬を緩ませる。


「美味い……」

「よかった」

「ありがとうな、もか。忙しいのに……」

「辛島さんほどじゃありませんよ」

「もか!」


我ながら、かわいくない言い方だとわかっていた。
けれど、勝手に口から飛び出す言葉を止められなかった。


「あのな、わざと黙っていたわけじゃねぇよ。もかは、初めて会った時から、偏見とか思い込みで俺を避けたりしなかった。だから、俺がどんな仕事をしてようと、どんな肩書だろうと、そんなのを気にするとは思っていなかったんだよ」

「…………」

「同じ人間なのに、現場で働いてるならよくて、でっけぇビルの個室で働いてるのはダメなのかよ? んなの、おかしいだろうが」

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