DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
辛島さんの言うように、どこでどんな肩書で働いていようと、彼は彼だ。
そのバックグラウンドがどうであれ、変わらない。
けれど、その横に並んで、同じ場所で生きていくと考えたら、彼との間にある高くて厚い壁に気づかずにはいられなかった。
世界中を飛び回り、何億、何十億もの資金がつぎ込まれるようなプロジェクトをいくつもこなし、国の中枢にいる人々と渡り合い、時には狡猾な遣り取りもする。
そんな人と同じ場所に立てるような自信も経験も、強みも、わたしは持ち合わせていなかった。
一時の付き合いなら。
それこそ、身体だけを利用するセフレのような関係ならば、気にせずいられただろう。
けれど、それ以上を――彼と過ごす未来まで思い描くことを、自分に許してしまったいま、気にせずにはいられない。
『桃果を選ぶ必要なんかない。桃果程度の女は、いくらでもいる』
優也の声が耳の奥にこびりついて、消えてくれない。
「なあ、もか。俺が生まれながらの御曹司で、セレブかなんかだと思ってるなら、それはちげぇよ。辛島組は西園寺の傘下に入っているが、中小企業だ。しかも、俺も兄貴もまともな家に育ってねぇ。俺らの母親は西園寺の血を引いてたが、とんでもない女だった。何人も愛人がいて、俺と兄貴を妊娠した時だって、父親が誰かもわからない有様だったんだ。DNA鑑定して、オヤジの子どもだとわかったから、かろうじて家を追い出されずに済んでいたようなもんだ」
何と言っていいか、わからなかった。
どんな言葉も、薄っぺらく聞こえてしまいそうだ。
「いわゆる政略結婚だったから、オヤジも義務さえ果たしてくれればどうでもいいと思ってたんだろうな。すっかり放置してて、母親が愛人と旅行先で事故死した時も、俺ら三人とも涙なんぞ一滴も出なかったよ」
「…………」
「だから、結婚なんて面倒なだけだと思ってた。どうせ結婚しても、幸せになれそうにないからな。でもな、もかとなら、ちがうかもしれねぇって思った」