DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々


比較的空いている電車を降りたのは、ほんの一年前まで毎日のように使っていた駅。
駅の北側には、見慣れたビジネス街が広がっている。

かつて勤めていた会社は東側にあり、そちらのエリアはよく知っているが、目指すものは西側にある。

いくつかの通りを渡り、角を曲がり、辿り着いたのは、ビジネス街の外れにあるひときわ巨大な建物。

通りからエントランスまでは、きれいに整えられた花壇、ベンチ、オブジェなどを配した広々とした前庭があり、ステンレス製の社名板にはずらりとグループ企業の名が並ぶ。

車寄せを挟んでそびえ立つ三棟の高層ビルは何本かの空中回廊で結ばれており、ビル内で働く人の数は百や二百では済まないだろう。

そんな企業が事業に費やす金額も、またそれによって生み出されるす利益も、従事する人間の数も、途方もなく大きい。


(大企業だってわかっていたけれど……)


あまりにも、自分が生きてきた世界とかけ離れている。

エリートの匂いも雰囲気も、欠片も感じられない辛島さんが、こんな大企業のトップに限りなく近い場所で働いているなんて、未だに信じられなかった。


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