DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々


優也が、なぜあんな電話を架けてきたのか。
その答えは、あのあと送られて来た柚子からのメールで判明した。


『専務、使い込みがバレてクビになったらしいよ。アイツの出世はもうナイね』


優也は、専務の姪である石田さんとの結婚で、後ろ盾を得ることを期待していたのだろう。

だから、その目論見が外れ、どこにも持って行き場のない苛立ちを吐き出したかったのだと思う。

出世の道を断たれた自分とは正反対。
巨大企業のトップに昇り詰めようとしている辛島さんと、自分が「必要ない」と切り捨てたわたしが付き合っているのが、気に入らなかった。

それだけだ。
単なる八つ当たりにすぎない。
そんなことをする人の言葉に左右されるなんて、馬鹿げている。


そう思うのに、彼の言葉はわたしの中から消えてくれず、わたしは未だ立ち竦んだまま、動けずにいる。

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