DOLCE VITA  ~ コワモテな彼との甘い日々

派手な金髪の若者は、


「ヤスにぃ?」


「っちわっす、姐さん。実は、トラさんが来れなくなっちまって」


ヤスにぃは、挨拶もそこそこに突然現れた理由を述べると、頭を下げた。


「ちょっと現場でややこしい問題が発生してて。すんません」

「そ、そう。あの、でも、仕事ならしかたないし、ヤスにぃのせいじゃないんだから、謝る必要はないわ」

「お詫びのしるしに、家まで送らせてください」


断ろうかと思ったが、こちらを見る彼のまっすぐなまなざしに、何か話したいことがあるのではないかと思った。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「すぐそこに車停めてるんで」


ヤスにぃと共に、通りに停めてある車までやって来たわたしは、予想もしていなかった状況に戸惑った。


(こ、これは……この人は……)


路肩に駐車していたのは、ほんの少し前に高層ビルの前で見かけたのと同じような、黒塗りの高級車。

白い手袋をはめた運転手が後部座席のドアを開けてくれるが、坊主頭の彼には見覚えがあった。

確か、梅乃さんの店に、辛島さんが来た時と同じ人で……。


(とっつぁん?)

「はい、乗るーっ!」

「きゃっ」


立ち止まったところを背後から押され、つんのめるようにしてふかふかのシートに倒れ込む。

わたしが体勢を立て直す前に、ヤスにぃも続いて乗り込んだ。


「とっつぁん、適当に流してくれ」

「承知しやした」


車は、まるで振動を感じさせず、滑らかに走り出す。


「姐さん、ヒマでしょ? ちょっとドライブに付き合ってや」

「え、や、ひ、ひま……だけど」


なぜ、彼とドライブに出かけなくてはならないのか。


「それと、とっつぁんのことは、時々しゃべる空気だと思ってくれればいんで」

「はぁ」


よくわからないが、車の中でなければ話せないことがあるのかもしれない。

しかし、ヤスにぃはなかなか口火を切ろうとしなかった。
そろそろ沈黙に耐えられなくなってきたところで、ようやく沈んだ声でぽつりと呟く。


「実は、最近、トラさんの調子が悪いんっすよ」

「えっ!」


病原菌のほうが、彼を避けて通りそうなものだが、一応生身の人間だ。
風邪を引くことだって、十年に一度くらいはあるかもしれない。


「び、病気なのっ!?」

「まあ、病気っちゃー病気かも……」

「病院には行ったの? 仕事してる場合じゃないでしょうっ!?」

「それが、普通の医者には治せない病気で」

「え……」


普通ではない医者なら、たとえば獣医なら治せるのかと問い返しそうになったが、ヤスにぃの顔がにやけているのに気がついた。


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