DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「は?」
一瞬、実力行使で乗っ取る……なんていう物騒な展開が頭に浮かぶ。
「俺、タヌキオヤジの愛人の子なんっすよ」
「え」
社外秘ではないかと思われる情報を突然聞かされて、うろたえずにはいられなかった。
「あの、それは、あのっ……わたしが聞いてもよかった、のかしら……?」
「公然の秘密なんで。外に漏らしたら抹殺するとかはないんで、大丈夫っす」
「そ、そう……」
「トラさんが、西園寺建設に入ったのは、俺のためなんです」
何がどうなってそこに繋がるのか、イマイチ読めない。
首を傾げたわたしに、ヤスにぃは「話せば長くなるんですけど」と前置いて、簡単に事情を説明してくれた。
「俺の母親、昔タヌキオヤジの愛人やってて、手切れ金がわりに店持たせてもらったんです。でも、酒とタバコで身体壊して、働けなくなって。そん時、俺まだ中坊だったんで、軽く路頭迷いかけてて。犯罪まがいのことに足を突っ込みかけてたところをトラさんに拾われたんです。んで、リュウさんとトラさんは、タヌキオヤジにかけあって、母親の入院費やら治療費やらもぶんどってくれて。たまたま、あっちの本妻のとこには跡継ぎになる男がいなかったんで、俺を認知させて。トラさんは、俺が一人前になるまでの間に、露払いしておくって言って、西園寺に入ったんです」
「……そう、だったの」
大変だとか、辛かっただとか、そんな言葉ではとても言い表せない苦労をしたのだろう。
ぬくぬくと育った自分には、彼を慰めたり、励ましたりするような言葉なんて、とても見つけられなかった。
現在ヤスにぃは、トラさんやほかの重役たちに付いて、勉強中。
てっきりブリーチとかなんとかで金髪になったと思っていた彼の髪は地毛で、母親がクォーターだという。
ちなみに、高校には行かず、大検を受けてトラさんと同じ大学に入学、卒業しているそうだ。
「俺がトラさんに恩返しできるのは、まだ当分先になりそうなんで、あのひとには長生きしてもらわないと困るんっす」
「辛島さんなら、長生きするわよ」
「あのひと頑丈だから、放っておいても長生きすると思うんっすけど、ハッピーに長生きしてもらわないと、困るんっすよ。俺がとっとと一人前にならなかったせいで、姐さんと結婚できなかったとか恨まれたくないんで」
「それとこれとは……」