DOLCE VITA ~ コワモテな彼との甘い日々
「か、辛島さん……無事、だったんですね?」
「おう。なんかすまんな? 大したことないのに、タツが大騒ぎしたみたいで」
「い、いえ……」
ほっとするあまり、めまいがした。
よろめき、ドアにしがみついたわたしの足元で、タツが泣き叫ぶ。
「もかねぇぇっ! すんませんっ! すんませんでしたっ! お、俺のせいで、トラさんがぁぁぁぅうっ」
「やかましいわっ! 誰が意識不明の重体だ。ピンピンしてんじゃねぇかっ!」
おそらく、ほっとしたせいで余計に激怒したのであろう梅乃さんは、タツの襟首を締め上げる。
「で、でもっ! 病院着くまでは、意識なかったんっすよっ! 石頭なのに血がドバーッて出るし、鉄パイプが曲がるしっ!」
タツは、すでに涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた顔を、さらにぐしょぐしょにして訴えるが、何がどうなったのかさっぱりわからない。
代わりに、ヤスにぃが説明を買って出た。
「うちの現場じゃないんですけどね、トラさんとタツが工事現場の資材を積んでるトラックの横を通りかかった時、たまたまワイヤーが切れて鉄パイプが落下したんっすよ。ま、普通に逃げりゃ、何の問題もなかったんっすけど、タツがコケちまって。で、トラさんが鉄パイプを腕で払いながらタツを引っ張って、勢い余って転んだ拍子に頭打って、ちょっと切って、脳震盪起こしただけです」
(……だけって……だけってっ! 下手したら……)
何でもないことのようにヤスにぃは言うが、一歩まちがえば、二人とも死んでいたかもしれない。
そう思ったら、血の気が引いた。
ついでに、意識も遠のいた。
「え、ちょっと桃果ちゃんっ!?」
「もかっ!?」
自分が倒れていくとわかっていても、足に力が入らない。
(貧血で倒れた経験はないけれど、床に頭や顔を打ち付けるのは、かなり痛そう……)
そんなことを思い、次に来る衝撃を覚悟したとき、固くて温かいものに包まれた。
「もかっ」
見上げた先には、泣きそうな顔をしたコワモテが。
言いたいこと、伝えたいことはたくさんあったけれど、一番気がかりなことは……。
「よやく……」
「は?」
「ポテト村……六時……」
「スイートポテトかっ!?」
とりあえず、大事なことは伝えられたと安心した瞬間、意識が途切れた。