終わらない夢
門堂へ向かう道中、彼女との会話は絶えなかった。久しぶりにこんなに楽しく話したかもしれないな。
「優奈ちゃんは、どうしてここに来たの?」
「分からない。お父さんが転勤族だから、それに連れまわされてる」
「そうなんだ…ちょっと心配してたんだ、ここまで来るのってどんなひとなのかなって」
そんな心配することなのだろうか。私はこういうちょっと不便で、物静かな場所は嫌いじゃないが。
「最初、女の子が来たって聞いた時、仲良くなれるか心配だった。ライバル増えちゃうかな、なんてさ」
私はどれほど危険人物と認識されているのだろうか。これでも並の常識はあるほう…だと思う。
「ほら、咲也ってさ…その、洋服着たら、似合いそうじゃない?髪もサラサラだし、スタイルいいし、顔カッコいいし」
「そ、そうかな…」
正直まったく考えてこなかった。服とか、容姿に関わるものには本当に疎いのだ。我ながら女子力とは無縁だと思う。
「もしかして、何も考えてなかった?」
「うっ」
「図星でしょ!」
なんでこんなに私の考えてること分かるんだろう…元々女の子は人の考えを読めたりするのだろう…いや、たぶん私が何も考えなさすぎなんだと思う。
「ほんと、脱帽だよ…」
「えへへ」
ふんわり笑う彼女を見ると、だいたいのことは許せそうな気がする。たぶん、作ってる雰囲気ではなくて、こういう性格なんだと思う。私とは正反対にも程があるかな。
「にしても、驚いたな。咲也のことで何も考えてなかったなんて。だいたい引っ越してくる人は、真っ先に咲也と会うと顔真っ赤になるのに」
「タコじゃあるまいし。そんなのあるわけ…」
「本当なんだよ!都会から来た子はみーんな顔真っ赤。でも…」
急に言葉が詰まった。さしずめ、彼の秘密といったところか。仮に違うにしても、私はもういちいち面食らうことはない。もうじゅうぶんしてきたのだから。
「本当は神様候補の男の子?」
「…なんだ、知ってるんだ。ふーん…」
ああなるほど、と感嘆する彼女は納得した様子で私を見た。どうやら腑に落ちたらしい。私にはなんのことだかサッパリなのだが。
「ねえ優奈ちゃん」
「なに?」
「勝負しよっ」
「は?」
あんまり笑顔で言われたから拍子抜けしてしまった。彼女に限ってそんなこと…いや、無いと思いたいが。
「神社まで競争!よーいどんっ」
「え?ちょ、ちょっと待って!」
嫌な予感はひとまず過ぎ去った。どうやら見逃してくれたらしい。思ったより、彼女の足が速いことに驚嘆する。というかこれはいい運動になりそう。
おおむね春先。何かものを言いたげな空が、目に映った。
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