終わらない夢
「咲也、今日もいいかな?」
「ええ。いつでもどうぞ」
…いつの間にか、ふたりで何やら話し込んでいる。全く聞こえないわけではないが、重い雰囲気なのと、ヘタに関わらない方がいいという私の直感が、「なんの話?」の一言を踏み留まらせた。
だが、私も子どもじゃない。少し聞こえるだけの単語である程度の推測はできてしまう。それゆえ、どうしても好奇心は抑えられなかった。
「ね、ねえ。なんの話、してるの?」
ふたりは特に表情を変えるわけでもなかった。
「……」
「話してもいいと思いますよ。優奈さんは信頼に足るかたでしょう。…ああ、この村に居るかたのお名前程度は存じ上げていますよ」
忘れていたが、彼は人のナリをして人ではないのだ。怖いような、怖くないような。そこに未だ違和感が残る。
「少し気が引けるけど、咲也が言うなら」
そうして、彼女はゆったりと話しはじめた。
「私、お父さんが居ないんだ。居ないというか、別居してるというか。おかあさんとふたりで暮らしてるの。いわゆる、母子家庭ってところかな。それでおかあさんが毎日働いているんだけど、明け方に仕事から帰るなりいきなり殴りかかるとか、気持ち悪いって言い続けたりとか。…ストレスが溜まってるんだって思ってたけど、やっぱり、ツラいんだ。すごく」

ひと通り話し終えて、彼女は泣き崩れた。嫌なことを思い出させてしまったんだ、と少し反省する。
だが、おかげでひとつ分かった。彼女の親は完璧な『毒親』だ。そしてその行為は、『虐待』に値する。
…それでも、まだ信じているのだろうか。
「私、どうしてもツラくて…。そんな時に咲也と会った。今までのこと、ぜんぶ話した。咲也は嫌な顔せずに受け入れてくれて…それから、優奈ちゃんも。ごめんね、いきなりこんな話しちゃって」
「……」
正直、今まで行ったところでこんな話を唐突に出されても、話はロクに聞かなかったと思う。だが彼女だけは違う気がしてならなかった。理由はわからないが、大切にしなければいけない存在だと思った。
「瑠夏ちゃん、顔上げて」
「…?」
「大丈夫、私たちがついてる」
涙で崩れた顔に、私はそう語りかけた。この言葉が、彼女に合っているのかは分からない。でも、力になりたい。
そう強く願った。
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