終わらない夢
その日は日が傾くまで話しこんだ。それぞれの生い立ちや、思い出のこと、他愛もないこと、自慢話に失敗談、恋の話まで。あいにく私は半分もついていけなかったのだが。いや、正確にはついていくのが怖かった。来て間もない私なんかが踏み込んでいい話なのか、そんな話がいくつもあったから。ふたりには悪いが、聞いているフリをすることも多かった。
結局、少しモヤモヤした感情を抱えながら家に帰った。

「ただいま」
「お帰り、優奈。今日も遊んできたのか?元気だなあ」
綺麗な歯を見せて笑う父を見ると、安心する。ここだけは私の場所なんだと。ここだけは平和な場所なんだと。そう思えてならない。
「今日は米が安かったんだ。だから、米が進むやつにしたぞ」
「…青椒肉絲?」
私は好きだが、父はあまり好きになれないと言っていた。
「食べれるの?」
「まあ、まだちょっと苦手ではあるけど。でも、優奈と一緒に食べるなら、どんな飯だって美味くなるもんさ。大事な我が子のために、俺は何にでもなれるんだ」
どこかのドラマにありそうなセリフ。キザだけど、私にとってはそれすら落ち着くんだ。
「最近、お父さんテンション高いね」
「そうか?普通だろ?」
「別人みたい」
見れば分かる。父は、いつもより楽しそうだ。

その日の夜、私は縁側に座って現を抜かしたように星空を見上げていた。風が心地良くて、いつまでもいられそうだ。
「何にでも、なれる…」
ボソッと呟いてみた。私が変われたりするのだろうか。誰かのために。それほど大事な人に巡り合えるのだろうか。
「夜分遅く、失礼します」
「え?」
瞬きをしたら、彼が出てきたみたいに、そこに立っていた。満月のおかげで、瞳の色だけが浮かび上がって見える。薄く紺色が入ったような色をしていた。
「瑠夏さんのことについて、話しておこうと思いまして」
そう言いながら、ゆっくりと彼は私の隣に腰掛けた。そこに体があるようで、無いみたいだった。
「彼女は、とても物静かな人でした。特に、両親の別居を機にそれが顕著に現れたそうです」
「え…?」
そんな風には見えなかった。天真爛漫で、少しのことでは挫けないような強さを持った、強い女の子だと思った。
「貴女がここに来たと聞いて、『友達が増える』と一番喜んでいたのは彼女です。あんな笑顔を見たのは、久しぶりですね」
「…そのために?」
「ええ。悪いとは思いましたが、どうしても伝えておきたくて」
微笑んでいるだろう彼の顔が見れないのは、周りが暗すぎるせいだ。なにも、顔を見たいとは思わない。うん、思わないよ。
< 14 / 60 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop