終わらない夢
Sakuya→Yuna

「……もう昼か」
今日は寝坊してしまった。とは言うものの、特にやることがあるわけではないから、何も問題はないのだが。
そのとき、誰かの気配がした。
「だれ」
声をかけてみると、いつか見た少年が立っていた。たしか、引っ越した翌日に訪ねてきた人だ。あのときはよくわからない人だと思った。
「ねぼすけ」
「…私じゃなかったら、変人扱いだよ」
「…あんたに頼みたいこと、あるんだ。少し付き合ってくんない?」
私の意見は無視らしい。
「俺と一緒に、なんでも屋をやってくれねえか?」
「は?」

「いくらなんでも、話が飛びすぎでしょ。なんで私とあんたが組まなきゃいけないの?」
「いいからいいから」
強引に私を連れ出し、外に出て少し歩くと、少年が振り返って私に告げた。
「なんでも屋って言っても、難しいことはしなくて、ただ話を聞いてくだけさ」
「はぁ?」
話を聞くとか、その前にいろいろ話すことがあると思うのだが。私はだんだんイライラしてきて、はっきりと断ろうとした。
「あのね、よく分からない人とよく分からない遊びに付き合う義理はないの。じゃあね」
「そう言われてもなー」
しつこく付きまとうさまは、ニュースで見るストーカーのそれと酷似している。私に執着する必要はどこにもないと思うのだが、何かしらの理由はありそうだったから、聞いてみることにした。無論、真っ当な理由がなければその場で暇乞いをさせてもらおうと思った。
「ひとつ聞くけど、なんで私となんでも屋をしたいの?」
少年は黙ったまま、どこかに助けを求めるような表情をした。何も考えていなかったのか。
「そう、挨拶がてら。あんたに挨拶したいって人が居るんだ」
「取ってつけたような理由だけど、本当にそうなの?」
また同じ表情に戻った。
「う、うん。本当だ。決まってるんだよ」
「なにが?」
「う、うんめい」
「はあ?」
御伽噺もいいところだ。そういうのは小説の中だけにしてほしい。
「…帰るよ」
「あああ、ちょっと待って!もうちょっとだけ話聞いてくれ!そしたら、絶対こっち来たくなるから!」
「しつこい男は嫌われるよ。それじゃ」
そのまま背を向けて帰った。なんでも屋なんて、やる気はない。
すると、少年が大きな声で私に言った。
「仕事をもらうときの報酬は自由に決めれるんだ!!お金だけじゃなくて、欲しいものでもいい!!」
「……」
振り返ると、本当に焦った顔をした少年が立っていた。…そんな顔をされると断りにくい。
まあ、たかが子どもの遊びだろうし、丁寧にやり込まなくても満足できるだろうと思った。
「…そこまで言うなら。分かった、なんでも屋とやらをやってみようかな」
「ほんとかっ!?まじでか!?サンキュー!!あんたならそう言うと思ってたぜ!!おれは翔!よろしくなっ。そう言えば名前なんだっけ?」
「優奈…」
「優奈か!これから頼むな!」
…本当に話を聞くだけで終わるのだろうか。
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