終わらない夢
翌朝から、それについて調べ始めた。インターネット、新聞記事、テレビ、雑誌…あらゆる情報を調べた。ときどき、バカらしく思えてしまうこともあるけれど、そんなときは翔の顔を思い浮かべた。つらくないわけではなかった。その顔を思い出すたび、胸が痛んだ。

「…!…な!……うな!!」
「ん……」
「優奈、大丈夫?」
うっすら映る視界には翔が入り込んでいた。心配そうな表情で、私を見つめているらしい。
「優奈さん…」
「……さく、や…?」
隣には咲也もいるらしい。ふたりとも、同じような顔をしている。
「咲也…なにしてるの?」
寝ぼけながら私がそう言うと、さっきまで合っていた目が、急に合わなくなった。
あれ…。
「あの…。無理しすぎ、です」
「そーだよ。優奈のお父さんも心配してる」
お父さんも…ダメだな、みんなに心配かけて。いまは、翔を救ってあげなきゃいけないのに。
「優奈さん、この続きは僕がやります。だから、もうゆっくり休んでください」
「ごめん…ね」
そのまま視界が真っ暗になった。

「……っ」
目が覚めると、すっかり夜だ。
「おはよう、優奈。つっても真夜中だけど」
「…お父さん」
まっすぐ私の目を見てくる父は、いつもと違って真剣な眼差しを向けている。
「最近、頑張ってるんだな」
「まあ…」
「なにをしてるとか、そんなのはどうだっていい。優奈がそこまでして頑張るのには、どんな理由があるのかを聞きたい」
なぜ、私はハザードのことを調べているのか。なぜだ。私は…
「翔の、あの顔…」
苦しみに囚われたような、あの顔。あれがたまらなく私も辛かった。
「あの顔が浮かぶたびに、私も苦しくなって…私なんかよりも、ずっとずっと暗くて、怖くて、狭い空間で、ひとりぼっちだって考えたら…いてもたってもいられなくて…それで……えっと……」
「もういい」
父の言葉が遮った。
「お前は、とても優しい子なんだ。人の気持ちが分かる、人格者だ。お父さんもお母さんも、胸を張って言える。自慢の娘だ。そんな素晴らしい娘が、誰かのために必死になってるのは、見ていて嬉しい反面…心配なんだ。いつか壊れてしまわないか。でもな、優奈。さっき来てたお友達二人を見て、大丈夫だって思ったんだよ」
そう言うと、父は呼吸を整えた。
「前に、お父さんは何にでもなれるって言ったろ?あれ、優奈にも同じことが言えるんだ。前までの優奈なら、そんなに必死になることはなかったと思う。でも今は違う。翔くんとやらのために、必死になってる。変わってるんだよ。だからな、優奈…」

「自信を持って、やるべき事をやりなさい。必要な時は、お父さんも手を貸そう。大丈夫、俺達は強いんだからな!」
そう言って、わしゃわしゃと頭をなでる。
そうだ、私はひとりじゃない。彼がいる。翔がいる。瑠夏ちゃんがいる。夏海さんや悠里さんもいる。頼れるひとはたくさんいる。お父さんだって、一番強い味方だ。
「ありがとう」
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