終わらない夢
チャプター9
Chapter9 真実
Yuna→Yuki
お父さんと、お母さん。まいにちいそがしそうで、あんまりあそんでくれません。でも、お気に入りのおもちゃがあるから、さみしくないです。ときどき、すごくかなしくなることがあるけれど、私がしっかりしなきゃって思ってます。今日はウマの人形であそぼう。
お父さんよってるの?おさけのにおいがする。あんまり近くにいたくない。それに、お父さんのお友だちのひとがいっぱい来てる。みんな、おさけくさい。体をなんかいもなんかいもさわられた。むりやりさわられた。とてもいたかった。こわかった。お母さんは、どこにもいなかった。
お母さんとふたりでにげた。男のひとがいる家に住むんだって。また、あんなことされないかな?おねえちゃんは、こわくないのかな?
お母さんが毎日ケンカしてる。声がこわいし、聞いたことがないような声でおこってる。なんでだろう。私がいるからなのかな?もう、あんな声聞きたくない…。そうだ。私がその声をかきけそう。そしたら、ケンカも止まるよね。歌がいいかなあ。
ふたりが別居をすることが決まった。お姉ちゃんとも離れ離れだし、お義父さんと暮らすことが決まった。どうもお姉ちゃんのしわざらしい。なんでなの?お姉ちゃんは私が嫌いなの?私がお義父さんと話したこと、ほとんど無いこと知ってるのに?なんでなの?お姉ちゃん…。
ねえ、お姉ちゃん。私、なんでお姉ちゃんがあんなことしたのか、まだ分からないよ。でも、私知ってる。お姉ちゃんがすごくいい人だって。そう信じてるけど、とても怖いよ。私はね、男の人を見るとたまに嫌な記憶を思い出すんだ。そうさせたのは、お姉ちゃんにも非があるんだよ。なんでって思うかな?今は分からなくても、いつか分かるよ。
お姉ちゃん、友達ができたの。まるで前からずっと一緒だったかのような、気の合う友達。優奈ちゃんっていう名前。可愛い名前してるよね。私とは正反対で、何にも動じないし何にも興味を示そうとしない。それなのに、私には興味を示してくれたんだよ。『面白いひとだね』って、目を見て言ってくれたの!私、嬉しかったから、もっともっと可愛くなろうって決めたよ。ずっと、優奈ちゃんと一緒がいいからね。えへへ!
お姉ちゃん、友達が最近冷たいの。なんだか避けられてるみたい。私は優奈と一緒がいいのに。私は優奈のことがこれだけ好きなのに。私は一生懸命頑張ったのに。優奈のために頑張ったのに。優奈のために可愛くなったのに。優奈のために私はいるのに。なんでだろう?私、何が悪かったのかな?聞いてみても、『そんな事ないよ』って言われた。気遣ってくれてるの、分かるよ。でもそんな優奈は見たくない。私は優奈と、楽しく過ごしたいのに。ああそうか、私がもっと頑張ればいいんだね。お姉ちゃん、私、頑張るよ。えへへ!
お姉ちゃん。私、すごく頑張ったんだよ。でも、前と変わらないまま。遊びに行って、可愛い服を着て、オシャレな店で買い物して、美味しいスイーツを食べて、ウィンドショッピングをして、写真もいっぱい撮って…。私、すごく頑張ったのに。どうしたら見てくれるのかな?もう疲れちゃったから、別の方法を考えよう。まだまだ頑張るよ。えへへ。
そういえば、いつからか持ってた鈴があったっけ。あれ、死んだ人と会えるみたい。私がこんなに感情豊かになったのは、死んだおばあちゃんのおかげ。死んだ人と触れ合うと、その人の性格や言葉遣い、その人の『何か』が生きてる人に入るんだって。私はもとの感情といい感じに混ざってくれたよ。そうだ、これを使えば…優奈に振り向いてもらえるかもしれない。なんでもっと早く気づかなかったんだろう?
「どうしようかなあ」
どうせ死ぬなら、やりたいこと色々やってからがいいよね。美味しいものいっぱい食べて、行きたいところに行って、冒険をして、欲しかったものを色々買う。最後だし、お金ぜんぶ使っちゃおうかな。
「…何してる。そんな荷物を引っ張り出して」
「遊びに行こうかなって」
「……」
「だめ…だよね」
「早めに帰りなさい」
えへへ、これからどうなるかも知らない人を見るのって、ちょっと楽しい。お姉ちゃん、もうすぐ優奈が私のものになるよ。優奈、待っててね…
どうせ死ぬ身だもん。美味しいものを食べて死にたいよね。たしか、ビワの種に毒があるとかなんとか。ここで気をつけなきゃいけないのは、お義父さんが化学に詳しいということ。ビワの種に含まれているのは…これだ。へえ、解毒剤になり得るのもある、と。どうしよう、もし見つかったら面倒だなあ。直接お義父さんに聞いてみようかな。
「ねえ、お義父さん」
「なんだ」
「亜硝酸アミルって…どんなの?」
「何を企んでる」
「学校で、先生が言ってたから」
「…薬品だ。たしか心臓疾患の治療で使われたりする。劇物に指定されてるから、簡単には見せてやれないな」
「ふうん…ありがと」
「……」
じゃあ、これで…見えないところでどんどん食べていけばバレない。なんで死ぬことひとつに、こんな時間かかるのかなあ。私は早く優奈と遊びたいのに。あ…キタかも。
「優奈、優奈!…くそっ、あのときやはり…」
「…どうする、いや、まずは…」
「ああ。…ああ。頼む」
「本当に……すまなかった。俺の責任だ」
…あれ。ここどこだろう。私は死んで…まさか、おばあちゃんがいた場所?なんか改めて見たら、寂しい場所だなあ。
「この歳で来たのか?ツイてねェなあ」
「…だれ?」
「俺はァ、ここの管理人。こんな若いヤツ久しぶりだワ」
「キモい。それじゃ」
「……なァんだあの女?」
私はあんな気持ち悪い男と話すために来たんじゃない。優奈と一緒にいるために、まずここに来たの。待っててね…もうすぐ、会えるからね。
「あ、そっから飛び降りたりすんなヨ。あんたにとって都合の悪い世界になっちまうぜ」
「へえ、優奈に会えるの?」
「ユウナ?」
「私の親友。大好きでたまらない友達。私は優奈と一緒に、ずっといるの」
「…そのユウナとやらも大変だなァ。ま、俺は関係ねーから、何とでもしとけ」
「ありがと、それじゃ」
「……なーに考えてんだろーな」
「あの…」
「だっ、大丈夫…ですか?」
「へ…?」
優奈…?優奈、なの?目の前にいるのは、優奈?ほんとに優奈?しかも、私服姿の優奈…かわいい…
「優奈……よかったあ、これで、私のものだぁ…!」
「え、えっと…」
「もう、そんな悲しい反応しないで!雪だよ!私、雪!」
「雪、ちゃん…」
「ちゃん付けはやめよって話したじゃん!ねえ、ずっと一緒にいようね…」
「い、嫌です…私、雪…ちゃんのこと、全然知らない」
え?
「どこかで会ったのかもしれないけど、私には思い出せそうに、なくて」
なんて?
「その…あんまり、こういうこと言いたくないけど…」
「あなた、誰ですか?」
そんなわけないよ。優奈は私の友達だもん。
『あんたにとって都合の悪い世界になるぜ』
「…そういうことね」
なあんだ、これくらいのことか。私、天才だから対処法も知ってるんだよね。パラレルワールド的になってるなら、本当の世界へ私が行けばいい。簡単でしょ?そのために鈴を持ってきたんだから。
「私の優奈なんだから…」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「え?」
「あの…私、あなたのこと、知ってみたい、です」
「へっ?」
「悪いひとじゃ、ないんですよね?」
「……」
「悪い…ひと、ですか?」
「…はは、はははっ…」
「えっ…と」
おかしい。おかしい。おかしすぎるよ、優奈。私が知ってる優奈はそんなこと言わないよ。なんで、そんなこと言うの?
「えへへ…うん。いっぱい、私のこと知って?」
でもね、結局作られた世界だから、だんだんもとに戻ってきちゃった。お姉ちゃんもいつの間にか現れてた。私は、死んだのか死んでないのか、よく分からない存在になっちゃった。優奈も、だんだん私と距離を置くようになった。前より、酷く。
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんでこうなっちゃうんだろう。これじゃ、何も変わらないよ。
私は、もうどうしたらいいのか分からなくなってきたから、とりあえず暇を潰せそうな所に居座ることにした。神楽組っていう、会社か何かの手下のトップになれたの。ハザードとかいうの?お金を出せば簡単に立ててくれたよ。お金は、鈴で願えばいくらでも出ちゃう。本当になんでもできる鈴だよね。
お姉ちゃん、優奈が引っ越しするって。それを知ったときには、もう遅かった。どこか遠くに…私の知らないところに行っちゃう。私の優奈が、私の知らない場所へ。そんなの、許せない。許さない。ぜったい見つけるよ。
河津村?聞いたことない。どこ?そんなへんぴな場所でなにをするんだろう。あれ、優奈も鈴を持ってるんだ。だったら、私と優奈、ふたりで元の世界に戻れるかもね。ようやく…私の優奈が手に入るよ。
「優奈…もう、逃がさないよ」
Yuna→Yuki
お父さんと、お母さん。まいにちいそがしそうで、あんまりあそんでくれません。でも、お気に入りのおもちゃがあるから、さみしくないです。ときどき、すごくかなしくなることがあるけれど、私がしっかりしなきゃって思ってます。今日はウマの人形であそぼう。
お父さんよってるの?おさけのにおいがする。あんまり近くにいたくない。それに、お父さんのお友だちのひとがいっぱい来てる。みんな、おさけくさい。体をなんかいもなんかいもさわられた。むりやりさわられた。とてもいたかった。こわかった。お母さんは、どこにもいなかった。
お母さんとふたりでにげた。男のひとがいる家に住むんだって。また、あんなことされないかな?おねえちゃんは、こわくないのかな?
お母さんが毎日ケンカしてる。声がこわいし、聞いたことがないような声でおこってる。なんでだろう。私がいるからなのかな?もう、あんな声聞きたくない…。そうだ。私がその声をかきけそう。そしたら、ケンカも止まるよね。歌がいいかなあ。
ふたりが別居をすることが決まった。お姉ちゃんとも離れ離れだし、お義父さんと暮らすことが決まった。どうもお姉ちゃんのしわざらしい。なんでなの?お姉ちゃんは私が嫌いなの?私がお義父さんと話したこと、ほとんど無いこと知ってるのに?なんでなの?お姉ちゃん…。
ねえ、お姉ちゃん。私、なんでお姉ちゃんがあんなことしたのか、まだ分からないよ。でも、私知ってる。お姉ちゃんがすごくいい人だって。そう信じてるけど、とても怖いよ。私はね、男の人を見るとたまに嫌な記憶を思い出すんだ。そうさせたのは、お姉ちゃんにも非があるんだよ。なんでって思うかな?今は分からなくても、いつか分かるよ。
お姉ちゃん、友達ができたの。まるで前からずっと一緒だったかのような、気の合う友達。優奈ちゃんっていう名前。可愛い名前してるよね。私とは正反対で、何にも動じないし何にも興味を示そうとしない。それなのに、私には興味を示してくれたんだよ。『面白いひとだね』って、目を見て言ってくれたの!私、嬉しかったから、もっともっと可愛くなろうって決めたよ。ずっと、優奈ちゃんと一緒がいいからね。えへへ!
お姉ちゃん、友達が最近冷たいの。なんだか避けられてるみたい。私は優奈と一緒がいいのに。私は優奈のことがこれだけ好きなのに。私は一生懸命頑張ったのに。優奈のために頑張ったのに。優奈のために可愛くなったのに。優奈のために私はいるのに。なんでだろう?私、何が悪かったのかな?聞いてみても、『そんな事ないよ』って言われた。気遣ってくれてるの、分かるよ。でもそんな優奈は見たくない。私は優奈と、楽しく過ごしたいのに。ああそうか、私がもっと頑張ればいいんだね。お姉ちゃん、私、頑張るよ。えへへ!
お姉ちゃん。私、すごく頑張ったんだよ。でも、前と変わらないまま。遊びに行って、可愛い服を着て、オシャレな店で買い物して、美味しいスイーツを食べて、ウィンドショッピングをして、写真もいっぱい撮って…。私、すごく頑張ったのに。どうしたら見てくれるのかな?もう疲れちゃったから、別の方法を考えよう。まだまだ頑張るよ。えへへ。
そういえば、いつからか持ってた鈴があったっけ。あれ、死んだ人と会えるみたい。私がこんなに感情豊かになったのは、死んだおばあちゃんのおかげ。死んだ人と触れ合うと、その人の性格や言葉遣い、その人の『何か』が生きてる人に入るんだって。私はもとの感情といい感じに混ざってくれたよ。そうだ、これを使えば…優奈に振り向いてもらえるかもしれない。なんでもっと早く気づかなかったんだろう?
「どうしようかなあ」
どうせ死ぬなら、やりたいこと色々やってからがいいよね。美味しいものいっぱい食べて、行きたいところに行って、冒険をして、欲しかったものを色々買う。最後だし、お金ぜんぶ使っちゃおうかな。
「…何してる。そんな荷物を引っ張り出して」
「遊びに行こうかなって」
「……」
「だめ…だよね」
「早めに帰りなさい」
えへへ、これからどうなるかも知らない人を見るのって、ちょっと楽しい。お姉ちゃん、もうすぐ優奈が私のものになるよ。優奈、待っててね…
どうせ死ぬ身だもん。美味しいものを食べて死にたいよね。たしか、ビワの種に毒があるとかなんとか。ここで気をつけなきゃいけないのは、お義父さんが化学に詳しいということ。ビワの種に含まれているのは…これだ。へえ、解毒剤になり得るのもある、と。どうしよう、もし見つかったら面倒だなあ。直接お義父さんに聞いてみようかな。
「ねえ、お義父さん」
「なんだ」
「亜硝酸アミルって…どんなの?」
「何を企んでる」
「学校で、先生が言ってたから」
「…薬品だ。たしか心臓疾患の治療で使われたりする。劇物に指定されてるから、簡単には見せてやれないな」
「ふうん…ありがと」
「……」
じゃあ、これで…見えないところでどんどん食べていけばバレない。なんで死ぬことひとつに、こんな時間かかるのかなあ。私は早く優奈と遊びたいのに。あ…キタかも。
「優奈、優奈!…くそっ、あのときやはり…」
「…どうする、いや、まずは…」
「ああ。…ああ。頼む」
「本当に……すまなかった。俺の責任だ」
…あれ。ここどこだろう。私は死んで…まさか、おばあちゃんがいた場所?なんか改めて見たら、寂しい場所だなあ。
「この歳で来たのか?ツイてねェなあ」
「…だれ?」
「俺はァ、ここの管理人。こんな若いヤツ久しぶりだワ」
「キモい。それじゃ」
「……なァんだあの女?」
私はあんな気持ち悪い男と話すために来たんじゃない。優奈と一緒にいるために、まずここに来たの。待っててね…もうすぐ、会えるからね。
「あ、そっから飛び降りたりすんなヨ。あんたにとって都合の悪い世界になっちまうぜ」
「へえ、優奈に会えるの?」
「ユウナ?」
「私の親友。大好きでたまらない友達。私は優奈と一緒に、ずっといるの」
「…そのユウナとやらも大変だなァ。ま、俺は関係ねーから、何とでもしとけ」
「ありがと、それじゃ」
「……なーに考えてんだろーな」
「あの…」
「だっ、大丈夫…ですか?」
「へ…?」
優奈…?優奈、なの?目の前にいるのは、優奈?ほんとに優奈?しかも、私服姿の優奈…かわいい…
「優奈……よかったあ、これで、私のものだぁ…!」
「え、えっと…」
「もう、そんな悲しい反応しないで!雪だよ!私、雪!」
「雪、ちゃん…」
「ちゃん付けはやめよって話したじゃん!ねえ、ずっと一緒にいようね…」
「い、嫌です…私、雪…ちゃんのこと、全然知らない」
え?
「どこかで会ったのかもしれないけど、私には思い出せそうに、なくて」
なんて?
「その…あんまり、こういうこと言いたくないけど…」
「あなた、誰ですか?」
そんなわけないよ。優奈は私の友達だもん。
『あんたにとって都合の悪い世界になるぜ』
「…そういうことね」
なあんだ、これくらいのことか。私、天才だから対処法も知ってるんだよね。パラレルワールド的になってるなら、本当の世界へ私が行けばいい。簡単でしょ?そのために鈴を持ってきたんだから。
「私の優奈なんだから…」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「え?」
「あの…私、あなたのこと、知ってみたい、です」
「へっ?」
「悪いひとじゃ、ないんですよね?」
「……」
「悪い…ひと、ですか?」
「…はは、はははっ…」
「えっ…と」
おかしい。おかしい。おかしすぎるよ、優奈。私が知ってる優奈はそんなこと言わないよ。なんで、そんなこと言うの?
「えへへ…うん。いっぱい、私のこと知って?」
でもね、結局作られた世界だから、だんだんもとに戻ってきちゃった。お姉ちゃんもいつの間にか現れてた。私は、死んだのか死んでないのか、よく分からない存在になっちゃった。優奈も、だんだん私と距離を置くようになった。前より、酷く。
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんでこうなっちゃうんだろう。これじゃ、何も変わらないよ。
私は、もうどうしたらいいのか分からなくなってきたから、とりあえず暇を潰せそうな所に居座ることにした。神楽組っていう、会社か何かの手下のトップになれたの。ハザードとかいうの?お金を出せば簡単に立ててくれたよ。お金は、鈴で願えばいくらでも出ちゃう。本当になんでもできる鈴だよね。
お姉ちゃん、優奈が引っ越しするって。それを知ったときには、もう遅かった。どこか遠くに…私の知らないところに行っちゃう。私の優奈が、私の知らない場所へ。そんなの、許せない。許さない。ぜったい見つけるよ。
河津村?聞いたことない。どこ?そんなへんぴな場所でなにをするんだろう。あれ、優奈も鈴を持ってるんだ。だったら、私と優奈、ふたりで元の世界に戻れるかもね。ようやく…私の優奈が手に入るよ。
「優奈…もう、逃がさないよ」