終わらない夢
案外近くに翔がいたから、気がかりも増えた。咲也と瑠夏、このふたりの居場所も知れるなら知りたい。そのうち瑠夏はたぶんここにいるんだと思う。問題は咲也だ。彼はいまどこに…?
いや、気がかりがもうひとつあった。
「ねえ、翔」
「ん?」
「…なんで私と同い年なの?」
「それは…あの世界に行くときに、なぜか年齢を下げられたんだ」
そんなこと、あるんだ…。
「あそこは所詮嘘の世界。辻褄を合わせるためだったんだろうさ」
「…なんか、大人だね」
「こう振る舞うしかなかったんだ。親を亡くしてから、妹を守るために強くなって、いつか妹が家を出るときに、安心できるように」
妹さんのために、そこまで…自分を捨ててまで頑張って。
「翔、やっぱりすごいよ」
「俺は何もしてない。頑張ったのは、こんな俺を頼って、信じてくれたあの子だ。俺は服とかメイクとか何も分からないから、買ってやることしかできなかったけど」
「すごく、いいお兄ちゃんだよ」
「だといいけどな。早く逝った親を恨んだりもした。ひとりで考えなきゃいけないことが多すぎて、逃げてしまいたいとも思った。子どもだった自分さえ恨むようにもなった。…子どもだったからな」
私なら、耐えられるはずがない。両親を亡くして、かつ弟や妹がいて、その子を守るために頑張らなきゃいけない。頑張りすぎてもまだ足りないかもしれない。そんな状況、嫌になるに決まってる。
「紗羅っていうんだ。いい名前だろ」
「うん。いい名前」
「昔はよく抱きついてきてくれたんだけどな。今じゃ反抗期さ」
「いつか分かるよ。翔のありがたみを。お兄ちゃんが、どれだけ頑張ってきたのか」
「…分からなくてもいいんだ。あの子が幸せなら、それで」
翔は、どれだけ自分を捨てたら気が済むんだろう。
翔は、どれだけの愛情を持っているんだろう。
「あの子が笑顔でいてくれるなら…忘れられたっていいんだ」
言ってあげたい。私が忘れないよって。ずっと大事にするよって。でも、なんでかな。さっきからずっと、ドキドキしてる。
「だっ…」
「え?」
「大事にするから、私…翔のこと」
「え…」
「あ、いや、その」
「…」
どうしよう、言葉が出てこない。こういうとき、なんて言うんだっけ。
「…ありがとな」
翔は、また微笑んだ。その姿が、とてもカッコよく見えた。
あれ?何でだろうな。翔は、まだまだ子どもっぽくて、お肉が大好きで、男の子が好きそうな服を着て…なんでも屋で、みんなとの交流があって。ぜんぜん、同い年とは思えないくらい…
「今は、優奈も笑ってくれ。そしたら、俺ももっと頑張れる」
やっぱり、イジワルだ。自覚せずにこんなことやってるんだとしたら、本当にイジワルだ。
「…イジワル」
「俺、なんか言ったか?」
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