終わらない夢
チャプター2
Chapter2 事象の地平線
「暇だな…」
父は朝早くから出て行き、家には私ひとりのみ。学校からの課題があるわけでもない、やるべき家事が残っているわけでもない。荷ほどきも昨日のうちに全て終わってしまった。つまり、やることが無いのだ。
テレビはあるにはあるが、よくわからない番組ばかりで、面白くない。
時刻は巳の刻。暇つぶし程度に、昨日訪れた神社でも行こうか。そんなことを考えていると、家の戸が叩かれた。見ると、同い年くらいの男の子だった。
「…なに?」
「昨日引っ越してきたのは、あんたか」
「そうだけど」
互いにぶっきらぼうな様子で受け答えをした。その面では気が合いそうだ。
だが、こんな日になにか用があるのだろうか。隣に住んでいる人ではなかったから、わざわざここに来るだけの理由があるのだ。
「お参りは?」
「行った」
「荷ほどきは?」
「終わった」
「…朝ごはん」
「今何時だと思ってるの」
「何もすることナシか」
たいそう不貞腐れていた。驚くほどに。そんなに何か手伝いたかったのか。だとしても、見ず知らずの人に手伝ってもらうのは気が引けてしまうし、それ以前に家に入れたくない。
「用がないなら帰ってくれる」
「暇なら神社に行くといい。あいつが話し相手になってくれる」
そう言ってその少年は走って去ってしまった。…私の考えていることはお見通しなのか。でも、好都合だった。少年の言う通り、今は本当に暇だ。
「行ってみようかな…」
昨日と変わらない景色、変わらない風、変わらない匂い。世間は変わっても、ここだけは変わらないでいてくれそうだ。いや、それでもゆっくり変わっていくのかな。
「変えてるのは、私たちなのかな…?」
「悩みごとですか」
「えっ?」
うかつだった。つい周りに誰も居ないと思い込んで、独り言を呟いてしまった。
見ると、昨日と同じ彼がそこに立っていた。
「我慢は体に毒、と言いますよ。あまり無理はなさらないよう」
「忠告ありがとう。…あなたはまるで、ここにずっと居るような物言いだけど」
皮肉っぽく言ってみた。単なる悪戯心に過ぎないが、目に見えて分かるくらいだった。だが、彼の言葉は私の予想と相反した。
「ええ、その通りです。僕はずっとここに居ますよ」
「どういうこと?」
私があ然としながら聞くと、彼は少しおどけた様子で笑った。相当におかしかったらしい。
「ははは、おかしな事を仰る方だ。もしかして、僕のことは何もご存じないのですね?」
「…なにも」
「僕はただの弟子ですよ」
またも私をあざ笑うかのように言う。どういうことだろうか。装いは神主さんなのに、本人はそれを否定する。それに弟子とは何のことだろう。
「弟子?どこかに師匠がいるの?」
「師匠…まあ、間違いではありません」
正鵠を射てはいないらしい。
「暇だな…」
父は朝早くから出て行き、家には私ひとりのみ。学校からの課題があるわけでもない、やるべき家事が残っているわけでもない。荷ほどきも昨日のうちに全て終わってしまった。つまり、やることが無いのだ。
テレビはあるにはあるが、よくわからない番組ばかりで、面白くない。
時刻は巳の刻。暇つぶし程度に、昨日訪れた神社でも行こうか。そんなことを考えていると、家の戸が叩かれた。見ると、同い年くらいの男の子だった。
「…なに?」
「昨日引っ越してきたのは、あんたか」
「そうだけど」
互いにぶっきらぼうな様子で受け答えをした。その面では気が合いそうだ。
だが、こんな日になにか用があるのだろうか。隣に住んでいる人ではなかったから、わざわざここに来るだけの理由があるのだ。
「お参りは?」
「行った」
「荷ほどきは?」
「終わった」
「…朝ごはん」
「今何時だと思ってるの」
「何もすることナシか」
たいそう不貞腐れていた。驚くほどに。そんなに何か手伝いたかったのか。だとしても、見ず知らずの人に手伝ってもらうのは気が引けてしまうし、それ以前に家に入れたくない。
「用がないなら帰ってくれる」
「暇なら神社に行くといい。あいつが話し相手になってくれる」
そう言ってその少年は走って去ってしまった。…私の考えていることはお見通しなのか。でも、好都合だった。少年の言う通り、今は本当に暇だ。
「行ってみようかな…」
昨日と変わらない景色、変わらない風、変わらない匂い。世間は変わっても、ここだけは変わらないでいてくれそうだ。いや、それでもゆっくり変わっていくのかな。
「変えてるのは、私たちなのかな…?」
「悩みごとですか」
「えっ?」
うかつだった。つい周りに誰も居ないと思い込んで、独り言を呟いてしまった。
見ると、昨日と同じ彼がそこに立っていた。
「我慢は体に毒、と言いますよ。あまり無理はなさらないよう」
「忠告ありがとう。…あなたはまるで、ここにずっと居るような物言いだけど」
皮肉っぽく言ってみた。単なる悪戯心に過ぎないが、目に見えて分かるくらいだった。だが、彼の言葉は私の予想と相反した。
「ええ、その通りです。僕はずっとここに居ますよ」
「どういうこと?」
私があ然としながら聞くと、彼は少しおどけた様子で笑った。相当におかしかったらしい。
「ははは、おかしな事を仰る方だ。もしかして、僕のことは何もご存じないのですね?」
「…なにも」
「僕はただの弟子ですよ」
またも私をあざ笑うかのように言う。どういうことだろうか。装いは神主さんなのに、本人はそれを否定する。それに弟子とは何のことだろう。
「弟子?どこかに師匠がいるの?」
「師匠…まあ、間違いではありません」
正鵠を射てはいないらしい。