今宵、狼神様と契約夫婦になりまして(WEB版)

 ぱっと見た限り、輪ゴムは入っていなかった。陽茉莉は引き出しの中に、文具に交じって漆塗りの木箱が入っているのに目を留めた。黒い漆塗りに、椿の花の蝶貝細工が施された雅びな小物入れだ。

「もしかして、この中かな?」

 陽茉莉はその木箱の蓋を開ける。
 中を確認し、しまわれていたあるものに目が釘付けになった。

「え?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」

 悠翔が不思議そうな顔をして、こちらに近付いてきた。そして、陽茉莉の見つめるものを横から覗き込む。

「これ……」

 陽茉莉は中に入っていたそれを恐る恐る手に取った。
 着物のような生地で作られた小さな巾着袋には、見覚えがある。紫色の紐には両側に房が付いており、中央に金色の鈴が飾られていた。
< 244 / 296 >

この作品をシェア

pagetop