今宵、狼神様と契約夫婦になりまして(WEB版)
「ここにはいなさそうだな」
「まだ近くにいるかもしれないから、私、この辺一帯をぐるりと回ってみます」
陽茉莉は辺りを見渡し、まだ歩いていない方向へと歩き始める。
そのとき、ぞくりと冷たいものが背中に走るのを感じた。
「ステキネ。ソノカラダ、ワタシニチョウダイ」
至近距離から、はっきりとそう聞こえた。
陽茉莉はさび付いた蝶番のように、ぎこちなく首を回してそちらを見つめる。道路沿いのツツジの植栽の前には、陽茉莉と同じ位の年頃の女の人が座っていた。
にんまりと笑う顔の半分は血塗れで──。
「ひっ!」
相澤と高塔が捜していたのは、この人だ。
本能的に、すぐにそう感じた。