緋色の魔女に恋をした
甘い罠にはご注意を
翡翠が出ていってから2日。1人の存在がなくなっただけでふわふわした生活を送っていた。
気づけば翡翠の名前を呼んでしまうし、想ってしまう。
いないことに気づいては、少し寂しい気持ちになるんだ。
でも今日は大魔女様との約束の日。
そう、ご子息のジェイド様にお会いする日。
暗い顔をしてはいけないし、気も下げてしまってはいけない。
今だけは忘れなきゃ。
準備を終えると魔獣の背に乗って大魔女様のお屋敷へと向かう。
純黒のドレスもメイクもいつもより上品に。気合を入れて。
この姿を翡翠が見たらきっと…
『綺麗だよマリー。純黒に包まれた宝石のよう。けど、隠しきれない美しさをその緋色の髪が見事に表してくれている。まるで闇夜に輝くレッドベリルのように』
って、キザなことを言ってくるに違いないわ。
「翡翠を想うのはこれでもう最後にしなきゃ」
寂しく微笑んだ私は下げていた視線を上げて、目の前に見えてきた大きなお屋敷を見据えた。
大きく息を吸い、静かに吐く。
私は、翡翠の為にも幸せにならなくちゃ。