翠玉の監察医 Lasting Night
圭介の母が作ってくれたご飯は、どれもおいしかった。山菜の天ぷら、キノコのお味噌汁、鹿肉を使った料理も振る舞われた。

しかし、食事の前に「黒鳥様に捧げないと」と言われお祈りを強要させられ、黒鳥に対する感謝を一人ずつ言わされることになった。さらに蘭の頭には先ほどの二人のこともあり、あまり箸が進まなかった。

「都会のお嬢様の口には合わなかったかしら?」

あまり食べない蘭を見て、圭介の母が声をかける。慌てて星夜が「初めての場所で緊張してあまり食べられないみたいです」と助けてくれる。

「とてもおいしかったです。ごちそうさまでした」

蘭は手を合わせ、食器をキッチンの流しへと持っていく。そして皿洗いを素早く済ませ、愛と凛から話を聞くことにした。

「一体何故、お二人は深森さんに怯えているのですか?」

蘭が訊ねると、二人は体を震わせながら口を開く。

「おじさんたち、黒鳥様に逆らった人を殴ったりしてたの。それに前に、黒鳥様の屋敷で働いてる人から大きな袋を渡されてた。その袋は赤黒く汚れていて、変な臭いがしたの」

「おじさん、その袋を山の近くに埋めてた。その場所、覚えてるよ」

赤黒く汚れた袋、変な臭い……。蘭の中である物語が浮かんでいく。

「貴重なお話、ありがとうございます」

蘭は二人に頭を下げ、食事を食べ終えた星夜と圭介にこのことを話した。

「俺の父さんがそんなことを?」

「その袋に入れられていたのって……」

圭介と星夜は顔を真っ青にし、蘭は無表情のまま二人を見つめる。蘭たちは知らない。リビングで圭介の両親が鋭い目をしていたことを……。
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