運命の一夜を越えて
「風邪ひくから」
と渉は私から体を離すと私の背中に手をまわして、車へと促した。

「タクシー拾うから」
「聞こえない」
「乗らない」
温かな胸から離れて、現実を思い出した私が渉の手から逃れて離れる。

その瞬間私を目で追う渉が今にも泣きそうな悲しそうな瞳になる。

思わず私は目をそらしながら、渉の元から離れようと体の向きを変えた。

「彩」
名前を呼ばれても振り向いたらいけない。
私は大通りまで進み、タクシーを拾おうと手をあげた。
その瞬間大きな手に手首をつかまれる。

「彩」
困ったような顔で私を見る渉。
< 247 / 498 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop