運命の一夜を越えて
「彩」
その声に私は膨らんでいた恐怖心がふっと消えたような気がした。

ギュッと閉じていた瞳を開けると、そこには大嫌いな真っ白な天井よりも先に、心配そうな顔をしているすでに見慣れている顔があった。

「大丈夫か?」
そう言ってその人は私の両耳にあてていた手をそっと握る。

「どうした?病院、嫌いだった?」
熱いくらいの温かな手に包まれて、私の冷え切っていた手が熱を帯びていく。

「・・・どうして・・・?」
帰ったんじゃなかったの?

診察室を出ていく彼の背中を思い出す。

「帰るわけないだろ。好きな人が弱って誰かの支えを必要としているときに、離れるわけないだろ。帰れって怒られても、帰るわけない。」
ふっと笑うその表情に、私の何年も何年も固く閉ざしていた扉が自然と開いていくような感覚を感じた
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