誰よりも近くで笑顔が見たい
お兄ちゃん、上原くんの。


上原くんって、弟だったんだ。


「高坂、蘭です」


「蘭ちゃんか。この前、ナンパされてたけどよくあるの?」


そう聞かれて、困りながらも頷く。


軽く頷いた柊さんに私が言う。


「あ、ここ、です」


私の家の前。


「ん。今日、ありがと」


「上原くん、に、お大事、にって……」


そう言うと、柊さんは笑った。


上原くんに似た、優しい笑み。


「ああ。伝えとくよ。じゃ」


片手を上げて柊さんは、くるりと背中を向けた。


「ありがとう、ござい、ました」


その言葉に片手を上げて、柊さんは夜道を歩いていった。
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