誰よりも近くで笑顔が見たい
「あれ、桜玖?」


聞き覚えのある声がした。


「菜乃花!」


桜玖の表情がわかりやすく変わる。


こいつだって、山内さんのこと好きなくせに。


「あ、上原くんもいるんだ。ねえ、蘭があっちで待ってるんだけど、一緒に行かない?」


「行く」


俺は、蘭からもらったマフラーを鼻まで引っ張り上げると立ち上がった。


てっきり、蘭が一人で待ってると思ってた。


少し歩くと、誰かと一緒にいる蘭が見えた。


しかも、男。


それに、俺にはあんまり見せてくれない楽しそうな笑顔をしてる。


よくよく見ていると、その男は兄貴で。


胸のあたりがモヤモヤした。


一瞬だけ、蘭には兄貴みたいなよく話す人の方がいいんじゃないかと思った。


しばらくその光景を見ていると、山内さんが声をかけた。
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