誰よりも近くで笑顔が見たい
ここなら、誰も来ない。


そう思って本を開く。


読みかけのページの文字を一言一言丁寧に読み進める。


強めの風が私の長い髪を揺らす。


そんなことも気にせず、私はひたすら読書に没頭した。


「誰かいんのか?」


どれくらいの時間が経ったのだろう。


男の人の、声がした。


お願い、気づかないで……。


「あれ、高嶺の花の子じゃん」


顔を隠すために伸ばした髪もあんまり役には立ってくれなかった。


「ねーえ、こんなとこで何してんの?」


ニヤニヤとしたその表情と、作った声。


学年別に分けられたネクタイの色は、私のリボンとは別の色。


確か、一つ上の先輩の色だったはず。


「誰か待ってんの?一緒に帰ろーよ」


そう言ってその人は、私の肩に手を置いた。


「……いやっ」


出たのは、そんな小さな声。


「いいじゃん、帰ろ」
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