プラチナー2nd-

「あー、例の新宿のお店のバイトの子の社会見学……」

「社会見学?」

そう言って和久田がクリスを見る。クリスは礼儀正しく椅子から立ち上がって和久田に会釈をした。

「紗子さんの会社の方ですか? 僕、バイト先で紗子さんをよくお迎えする者です。今日は紗子さんに付き合っていただいて、会社の雰囲気を味わいに来ました」

クリスの自己紹介に和久田が目を瞬かせる。

「なに。じゃあ君はうちの会社が希望なの?」

「はい! …と言いますか、紗子さんの後輩になりたくて」

は? と和久田は不審げに眉を寄せた。和久田の様子に気付くことなく、クリスが続ける。

「紗子さんの下で働いて、いつか紗子さんを支えられる男になりたいんです」

曇ることのない目でそう言われて、和久田はますます眉間に皴を寄せた。

「どういうことだよ、松下」

険しい顔になった和久田相手に口ごもる。まさか和久田に、好意を持ってもらってるクリスとデートしてました、とは言いにくい。紗子が何も言えないでいると、クリスがはきはきと、

「俺、紗子さんの恋人に立候補したくて」

と言う。厳しい顔になった和久田に対して、紗子は視線を合わせられなかった。





会社を出て、駅でクリスと別れる。クリスは終始機嫌が良かったが、紗子は月曜日に向けて悩みが出来てしまった。

あの後、和久田は上司に呼ばれて職場に戻った。クリスのことを不審がっていたから、きっと月曜日に顔を合わせたら問い詰められるだろう。なんて説明しようか。ただ、和久田と付き合ってもいないのに弁解しなければならないのかと、それはちょっと疑問だった。


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