プラチナー2nd-
紗子は新宿駅で降りた。『ア・コード』に行こうと思ったのだ。一人だけど、今ではシェフともクリスとも話せるようになっていたし、お酒を飲まなければ大丈夫だと思った。
木の扉を引いて店内に入る。いらっしゃいませ、という山脇のやわらかな声にクリスが気付いて紗子を見た。
「あ、紗子さん」
「こんばんは。今日は一人なんだけど良いかな」
確認すると、勿論です、と満面の笑みで迎えてくれる。テーブル席は埋まっているし今日は一人なのでカウンターに座らせてもらった。
クリスがお冷を持ってくる。その右手の中指には紗子が買ってあげたリングが収まっていた。使ってもらえているのが嬉しくて、にこりと微笑む。
「早速使ってるわね」
「はい! もうあれから風呂と寝るとき以外はずっとしてます」
そんなに気に入ってもらえたなら何よりだ。食事を注文してカウンターの上で手を組んだ。
……実は、どきどきしている。浜嶋の誘いでもなく自分の意志で此処に来て、クリスに対してどう振舞うのが、和久田と恋を成就させた自分に相応しいのか……。和久田と想いを交わしているから、クリスの好意は受け取れない。だけど、デートに誘われたら行けると思う。でもそれって、クリスに対して中途半端なのではないかなと思うのだ。